ミス・ファーブルの蟲ノ荒園 (2) (電撃文庫)

【ミス・ファーブルの蟲ノ荒園(アルマス・ギヴル) 2】 物草純平/藤ちょこ 電撃文庫

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十八世紀に発生した謎の巨大生物“蟲”によって大きく変貌した、もうひとつの近代。日本から遠く離れた欧羅巴の地で、その左目に奇妙な“蟲”の力を宿すことになった少年・秋津慧太郎。彼がある日、街で遭遇した「死神」―かの者が狙う「魔本」をめぐり、蟲愛づる魔女アンリ・ファーブルと女騎士クロエ、謎多き少女マルティナまでも巻き込んで、長い長い一日が幕を開ける。最悪の事件の裏に潜む呪わしい因縁は、十字教の総本山にも至る秘密を秘めたもので―まだ見ぬ荒園をめざし、少年と少女は闘う。蟲と恋と蒸気が彩るスチームパンク・ファンタジー、激動の第2弾!
幼稚な正論を振りかざすしかなかった慧太郎の著しい成長を伺わせるスチームパンク第二弾。いや、自分でも信じきれていない建前ばかりの正論に縋る事でしか剣を振るえていなかった慧太郎が、ここまで変わることが出来たか。あの本物の戦士であるジョセフとの魂のぶつかり合いが、どれほど彼の成長を促したか、実感叶うというものである。
自分の中に生じている想いを、正論という耳障りの良い借り物の言葉で飾り立てて繕っていたのが嘘のように、自分なりの自分だけの言葉で、信念を語る。それは、妥協の許されない逃げ場のない、ともすれば辛いばかりの自分の心を抉るような自問だったかもしれない。でも、ジョセフとの戦いは少年から安易な逃げを遠ざける強さを与え、ひたすら自分を突き詰めていくだけの輝きを少年に生じさせたのだろう。
もう一人の自分、ともいうべき男に自分の「信念」と「正義」を語る慧太郎の姿は、掛け値なく格好良かった。その姿は紛うことなき男のものであり、幼さを脱ぎ捨てた大人の背中を感じさせるものでした。
見た目が少女? 関係ないね!
いや、一度女の子と認識されてしまうと、普通に男の格好をしていてももはや男と思われないあたり、慧太郎の容姿ってどうやら真性に女の子みたいなんですが。初対面の人にさえ、男装の美少女と認識されてしまうあたり、もはや手遅れもいいところである。

死神と呼ばれ、魔本という謎の魔導書を手にした人間を次々と惨殺していきながら、それをその者への救いと詠ってゆらぎもしない男。一見すると、無茶苦茶な理屈に寄りかかっている殺人鬼そのままなのですが、彼の持つ背景や魔本の正体が明らかになるにつれて、彼の言う「救い」が決して根拠の無い妄言ではないことが理解できてくる。
彼、ベノワは狂った殺人鬼などではなく、そのおぞましい境遇にのたうちまわりながら救いを求める男でした。同時に、彼が自分だけの事にかまけず、自分と同じ境遇になろうとしている無辜の民を悲惨な末路から救いたい、と願い行動に移す、優しい男でもあったのです。それは贖罪だったのでしょう。代償行為だったのかもしれません。ですが、彼が他人を思うことの出来る男であり、この世界の社会通念を鑑みるに、彼に迅速に殺される事は彼の言うとおり「救い」の要素があったのは間違いないことでした。あまりに一方的で、殺される当人に意思確認をしないというのも、あまりにも理不尽である事は間違いないものの、殺される当事者が受けるであろう絶望を思うなら、何もわからないうちに殺されるのも無垢なる救いであったことは、決して否定出来ないのです。
しかし、敢えて慧太郎は死神ベノワの救いを、他者を救い自分を救おうという必死で、縋るような、慟哭に塗れた彼の修羅道を、敢然と否定するのです。
借り物の言葉ではなく、自分で悩み苦しみ心の内から溺れるようにして掬い上げた信念を言葉にして、もう一人の自分の末路であるベノワの救いを、否定してみせるのです。
そして、慧太郎がたどり着いた答えこそ、生きて戦って辿り着く場所こそ、アンリと交わした約束の地だったのです。
この回り回ってあるべき所に着地していく構成は、哀切に彩られたどうしようもない現実への人の抗いというデコレーションもあって、とても美しく感じるものでした。同時に、クロエとマルティナというクラスメイトたちが深く関わるようになり、アンリと慧太郎の二人だけの物語に彼女たちが加わった事で、気づけば「楽園」の形がささやかながら成立していた事にも嬉しさが芽生えるのでした。でも、クロエの一族にまつわる謎や、マルティナの秘密がエピローグで明らかになったことで、慧太郎とアンリ、クロエとマルティナという四人が一緒に居る暖かな光景は、背筋に寒気が走るものでもあるんですよね。当人たちは誰も理解していないけれど、彼らが今同じ時間と空間で日常を過ごしているというのは、とてつもない奇跡と偶然と運命のイタズラの上に成立しているものなんじゃないだろうか。奇跡のような調和の上に成り立つ楽園。その儚さと脆さ、理想の重たさを思うと、この小さな楽園の姿には、痺れるようなナニカを感じるのです。
うむむ、なんか凄いぞーー。

アクションシーンは相変わらず、見栄えのする躍動感や鋭利さが盛りだくさんで、脳内で物凄い作画で動いているような感じです。アンリとクロエ、アンリが一方的に嫌っていた女の子同士の人間関係も、クロエのめげないアプローチについにアンリが陥落する形でクロエの勝利に終わり、得難いアンリのデレを獲得するという結末に。はいはい、ご馳走様です。クロエ、そっちの卦はないと言いつつ、ケイへの態度といいアンリへのそれといい、わりと百合の人なんじゃないかという疑いがw いや、ケイが相手だとノーマルになるのですが。
ベタベタしないように気をつけながら、何だかんだと慧太郎が気になって仕方なくて、クロエとケイのデートを尾行するアンリも、本人女子力かなり乏しいくせにちゃんと乙女していて、ニヤニヤするやら安心するやら。お風呂のシーンは眼福でした。慧太郎が男だと知っているのに一緒にお風呂に入らなきゃいけなくなったアンリの心境たるや、やっぱり単に覗きや偶然混浴してしまうシチュとは全く異なる乙さがあるんですよね。結局、慧太郎あますところなく見てるし。こいつ、なかなか良いむっつりだわ。うむ、うむ、ごちそうさまでした。

次回もほんとに期待大。ラストを見る限り、ちょっと背中を押すだけで凄まじい激動の渦に巻き込まれそうな要素たっぷりですし。楽しみです。

1巻感想