つくも神は青春をもてなさんと欲す (スーパーダッシュ文庫)

【つくも神は青春をもてなさんと欲す】 慶野由志/すぶり スーパーダッシュ文庫

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物の修理が得意な骨董品屋生まれの高校生・物部惣一は、ある日、クラスメイトの月野原鞘音が「他人に不幸を撤く力」を持っていることを知る。その呪いのような力を持つがために、他人と距離を置き、空虚な表情を浮かべる鞘音の姿を見た惣一は、彼女を救いたいと思う。そんな時、惣一へ祖父から古い茶釜が届く。その正体は付喪神という、道具が精霊と化したものだった。幼い少女の付喪神に「つくも」と名付けた惣一は、彼女が持つ“お茶で心をもてなす能力”を使い、鞘音を救うべく動き出すが…!?
第12回スーパーダッシュ小説新人賞優秀賞受賞作!
茶釜というと中に爆薬を詰め込んで自爆するものだと、そんな固定観念に縛られてしまっている昨今ですが、そういえば茶釜ってお湯を沸かすものだったんだなあ、と久々に思い出した。でも、今の子は茶釜なんて言われても容易に形が思い浮かぶもんなんだろうか。自分が子供の頃は分福茶釜のお話を絵本なんかで読んだものだけれど。今の子供も日本昔ばなしみたいな日本古来のお伽話を普通に読んでいるものなんですかね。こればっかりは、自分か身近に小さいこどもがいないとなかなかわからないものです。
でも、茶釜って見ていても楽しいですよ。ざっと画像検索しただけでもいろいろな形のが出てきますし、見目を楽しませてくれます。いいものが名物として過去から現在に至るまでもてはやされているのも、まあわからなくもないんですよね。
と、話が茶釜の方に流れてしまいましたが、本作は新人作品と思えないほど卒なく丁寧にまとめられた良作でした。と言っても小さくまとまっているわけじゃなくて、キャラクターが生き生きしている弾むようなリズム感によって構築されている作品で、最近こういう初っ端から上手いなあ、というのが増えましたねえ……って、自分の中の
「最近」の定義が十年単位で延長されている気もするのですけれど。裾野が広がることによって最初から玉から出発する作品が少なくない、というのも間違いないと思うのですけれど。
一番お気に入りなのが、鞘音が彼女自身を暗闇に沈めていた諦めから解き放たれたあとの、あの静かな、でも剥き出しになった感情の描写でした。あの終わることのない闇から迷い出てきたような、おぼつかなくも呆然としながらも、じわじわとこみ上げてくるように自分の身に起こったことを実感していく、あの鞘音の感情表現は、その後の惣一への縋るような、離れてしまえばこれが束の間の夢のように融けてしまうかのように必死になって離れまいとする姿といい、心に迫ってくるようなシーンだったんですね。あれはもう、鞘音がどれだけの絶望に苛まれていたか、そこから救われたことが彼女にとってどういう事なのかをこれでもかと伝えてくれる良いシーンだった気がします。
押し付けがましくなく軽妙でありながら、芯の通った頼りがいのある主人公に、マスコットのように可愛らしいつくもという茶釜の少女。どこかポンコツな巫女さんといい、掛け合いもテンポもよく、読んでいて楽しかったです。
ただ、後半はマキが入った、というか前半で見せた丁寧さが幾分性急さに押し流された感があります。人形少女とそのマスターとの交流も中途半端なままで、クライマックスの展開に流れ込んでしまいましたし。
そのクライマックスも、バタバタとバトルになってしまったのはちともったいなかった気がしますね。なんちゅうか、そぐわないというか、テンプレート的にバトルで決着をつける、という固定観念に沿ってしまったようなブレが
かいま見えたというか。バトルに流れる展開を小手先に感じてしまったというか。個人的には、対決が必要だったとしてももうちょっとあっさりと片付けて、心や言葉に重点を置いて呪いを解いて欲しかった。なにしろ、つくもの特性が、心を和ませる能力ですからね。最終的に、その能力で呪いとなっていた意志を解きほぐすことになるのですが、トドメじゃなくて過程にもその要素を重視して欲しかったですよね。それだけ、情感に訴え心を温めるタイプの王道作品としての冴えを前半で大きく感じていたものですから。
いずれにしても、初っ端から非常に完成度の高い作品でしたので、もしこのまま続きが出るにしても高い位置で安定した続編を出してくれそうで、楽しみです。安定したままこじんまりとしないでくれるとありがたいですね。頑張って掘り下げて掘り下げて♪