仮想領域のエリュシオン 001 シンクロ・インフィニティ (MF文庫J)

【仮想領域のエリュシオン 001 シンクロ・インフィニティ】 上智一麻/nauribon MF文庫J

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類稀な運動神経が取り得の兄、天陵大河。天才的なプログラミング能力が取り得の美少女妹、天陵冬姫。八年ぶりに一つ屋根の下で暮らすことになった兄妹は、二人だけで生きていくための生活費という問題に直面していた。冬姫が提案した工面方法、それは人々の生活に深く係わっている基幹システム、電脳世界の悪質なバグを倒して賞金を稼ぐことができるゲーム、構造体≪アリエス≫だった。不慣れな感覚に戸惑いながらも持ち前のセンスでゲーム内を無双する大河だったが、ある日、冬姫の親友の西園寺涙が正体不明のバグに襲われてしまい―――。
「待ってるからね、王子様」破天荒なチート兄妹が繰り広げるハイブリッドバトルファンタジー、ここに始まる!
これ、賞金額の安さをどう考えたらいいんだろう。うむむ、バグの除去という本来の目的からすると、わりと現実的な額なのかな、と思わないでもない。裕福な暮らしは出来なくても、まあ一日にこれだけ稼げるのなら悪くはない気がする。ああ、でもチームメンバーで賞金を割らないといけないとなると、ちょっと苦しいのか。これで飯喰ってくのは苦しいかもしれないけれど、バイトと割り切るなら割のいい方なのかもしれない。

そんなゲームの賞金額に対して、妹の金遣いの荒さはちょっと考慮した方がいいんじゃないだろうか。浪費癖があるというわけじゃないんだろうけれど、事前準備でお金を使い果たしてしまうって、金銭感覚がヤバイって。計画性も案外なさそうだし、この娘に財布を持たせておくのは非常に危険だと思うんだけれど。兄の方も、その辺りしっかりしているとは言えなさそうだしなあ。涙の家とはいえ、毎朝喫茶店で朝食、というのはなかなか経済的に贅沢な話じゃないですか。

なんだろう。ちょっと地に足がついてない感じがする。ヒロインたちのキャラクターは良く仕上がっているし、主人公の大河も、卒なくまとまっていて適度に熱い性格をしていてストレスを感じない好漢なのですが、彼らが動くべき舞台とストーリーが書割りめいていてしっかりと地面に根づいてない気がするんですよね。見てくれだけはそれなりに仕上がっているのだけれど、ポンと地面の上に乗せているだけみたいな感じで、微妙にグラグラしている。そんなもんだから、キャラもそれぞれ足に力を入れて踏み込みに踏み込めず、せっかくのキャラの良さを活かせずにフワフワと与えられた流れに乗って動くのが精一杯で、まだ自分から動くことが出来ていない感じ。まだ自分がどれだけポテンシャルを持っているかわからず、それを探るだけの余裕もない、という感じか。冬姫にしても涙にしても、巴夜にしてももう既に現状である程度勝手に動き出しても良さげなくらい出来上がってる感じなんだけれどなあ。なんかこう、一本ガツンと真ん中に通った芯が作品に見当たらないんですよね。逆に、そこさえ通れば、上滑りしている部分が全部かみ合ってきそうなんだけれど。
ぶっちゃけ、必要な物は全部揃っていると思う。ストーリーも舞台設定も、大河や妹、巴夜の行動原理や信念にしても悪くはないんですよね。あとはほんと、慣れだけかもしれない。その慣れが安易な方に流れていけば、十把一絡げの安い建売になっていくでしょうし、その慣れを「掴んで締めて掘って練って鍛えて」の方に仕上げていくなら、元々の精度の高さからして実に良い方へと邁進していく、そんな感じがするんですよね。
粗が少なそうに見えて見えにくい所に隙間がたくさん、というのはある意味新人さんらしい作品ではないかと。個人的には、この隙だらけなところが逆に伸びしろがたくさんありそうで、舌なめずりなんですが。
何気に涙みたいな娘をメインっぽいところに据えたのは面白いと思うんですよね。というよりも、明確にメインヒロインらしい役どころが機能していないところが、中途半端に見えてヤバいところであり逆に面白味を感じたところでもあり。如何様にも転びそうで、結構楽しみなんですよ、私としては。