MONSTER DAYS (MF文庫J)

【MONSTER DAYS】 扇友太/天野英 MF文庫J

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【邂逅の日】1200年前のその日、世界に魔物が出現した。それはドラゴンであり、妖狐であり、巨人であった。そして戦いが生まれた。魔王が生まれた。英雄が生まれた。多くの戦い、犠牲、そして時を経て、人間と魔物は何とか共存している。とはいえ、未だ軋轢が絶えない人魔間の平和を維持するため、人魔調停局の新人実働官ライル・アングレーは今日も事件と、上司であるオーロッドの叱責と戦っている。
そんな中、相棒の一角獣であるアルミスと社会加入を求める外部魔物集落【竜羽の里】の使者を護衛することに。だが、護衛対象の使者は竜族の姫様、しかも彼女は幼い少女で――!?
第9回新人賞 <最優秀賞> 受賞! 銃と魔法の現代バトル&サスペンス活劇誕生!
……うぉう(呆気
いや、なにこれ凄くない? ちょっと上手い新人作品、どころじゃないレベルなんですけど。
うむむむ、これは参った。問答無用、文句なしに面白い。読み応えが半端ない、なんちゅうハードボイルド。
ハードボイルドなんだけれど、主人公ライルって全然こう、鋼鉄の男とかそんな感じではないんですよね。性格的に問題があるわけでもなく、上司の怒鳴り声にうんざりしながら、好き勝手する同僚に皮肉を垂れ、気の合う仲間と他愛のない雑談に興じる、普通の捜査官。調停局の実働官って、世界の背景は違うけれどアメリカさんの刑事モノが一番しっくりくる仕事かな。新人、なんて冠ついているけれど、既に何年か実務についているし、新人特有の現実を見てない青臭さは持ってないし、かと言ってスレて性格がゆがんでいるわけでもない。堅実に強かに、ちゃんと任務をこなしているやり手の捜査官、て感じで。なんでそんなに始末書が多いのかはわりと謎。戦闘能力も特段高かったり、特別な能力を秘めてたりするわけでもなく、同僚の魔物の実働官と比べると純粋な身体能力や特殊能力では一等劣る普通の人間なんで、周りの同僚と比べても決して強い方でもなんでもない。ただ、サバイバリティが高いというか、粘り強いというか、絶体絶命でも凌ぐ凌ぐ。このあたりは、ハリウッドの刑事物なんかと一緒で、スペックの高低じゃないんですよね。決して強さは感じないのに、喰らいついたら離さないしぶとさが、土壇場の度胸と機転の利かせ方がやたらとカッコいいんですよ。
悲鳴を上げながら軽口を絶やさず、すかさず反撃。アクションシーンの充実ぶりは、見応えたっぷり。後半に行くほど、相手が無理ゲー化していくのですけれど、絶体絶命どころか必死の状態になってさらにコイツのカッコよさがでっかくなっていくんですよ。絶対に譲ってはいけない一線を守るために、文字通り全身血みどろになり、凄まじい痛みにのたうちまわりながら、逃げずに戦って戦って戦いぬく。
また、怪我を負ったり、悲惨極まりない状態に陥るシーンの表現が、また痛みが伝わってきそうな迫真の描写なんですよ、これが。マンティコア戦なんて、あまりにも悲惨なダメージに生唾を飲み込んだほど。あれほど凄まじい状況になりながら、心折れない様を見てようやくこの普通の捜査官の凄まじさを思い知りました。いや、こいつホントすげえ、と唸ってしまった。歯を食いしばって我慢してこらえて、退かずに立ち向かう姿がもう痺れそうなほどカッコいい。その戦う理由がまたいいんですよ。大層なお題目なんかじゃなく、本当にささやかな、人として当たり前の、誰もが共感できる正義。泣いている子供を理不尽から守るという、大人としての正義。それだけの事なのです。でも、その理不尽を押し付け、泣いている子供を消し去ろうとしているのは、社会であり秩序であり平和と呼ばれるもので、そういった正しい世界を織り成すものが嵩にかかって子供を轢き潰そうとしているのを目の前にして、彼とその仲間たちは一歩も退かないわけです。
私はねえ、こういう素朴な正しさを貫ける大人たちって、大好物なんですよね。これこそ「強さ」というものでしょう。感動した、感動した!!
相棒のアルミスが、あくまで相棒であってまったくヒロインではなかったのは正直苦笑いなんだけれど、あらぶる一角獣がまたスゴイんですよね、荒ぶりすぎだろうユニコーン。実はユニコーンって凶暴、という話は知っていたけれど、ここまで大暴れするユニコーンも見たことねーですよ。あんた、一応回復職じゃないんですか、と問いたくなるような突貫ぶり。ライルに負けず劣らずの血みどろ具合であります。頼もしいったらありゃしない。
彼女に限らず、同じ調停局の同僚たちがまたいい味出してるんですよね。人間、魔物を問わず。
魔物の種類が洋の東西を問わずに、ほんとにいろんな種類が居ることには関心しましたね。窮奇とか、ポンと出てきませんよ。素晴らしかったのが、こうした多種多様な魔物が本当に社会の中に馴染んでいたこと。魔物と人が融和した世界というのは、これまでもたくさん描かれてきましたけれど、この人魔社会の馴染みっぷりは一等抜けていて、思わずヨダレ垂れてきそうでした。人と魔物が一緒に社会を形成しているのに、全く無理がありませんし、しかし社会情勢としては人と魔物の間にしっかりと軋轢があることを、歴史を交えて主題としても取り扱っている。魔物の種類の特徴に、立ち位置が引っ張られてないのも好印象。一番わかりやすいのがアラミスですけれど、彼女のユニコーンという魔物の特性は消さず、しかしあの暴れさせようからも分かる通り、ユニコーンと言えば想像してしまう固定観念は、綺麗に吹き飛ばしてるんですよね。
また、人間と魔物の能力差はきっちりと描きながらも、調停局の中ではその辺りに全然壁が感じられないのも良かったなあ。ちょっと名前が出てくるだけの同僚でも、一発で印象に残るような存在感で、読んでてちょいとワクワクしてきてしまいました。この手の中では一番好みかもしれん。

一方で、本作は社会の闇をこれでもかと容赦なく描き出す作品でもあり、抗いようのない理不尽に憤りを感じる前に薄ら寒さを感じてしまうような、そら恐ろしさがあるんですよね。だからこそ、それに真っ向から抗おうとする主人公たちに思わず拳を握り、強かに裏から手を回して自分なりに正義を手繰り寄せようとするロイヤーみたいな食わせ者に頼もしさを感じてしまうわけです。ロイヤー、私は好きですよ、この人。何もせずに黙認してしまったり、目をそらしてしまう人に比べてば、まさに正義の味方じゃないですか。身体張って血反吐を吐いて戦ったライルたちからすれば気に喰わないでしょうけれど、彼がお膳立てしてくれなければそもそも彼らも体を張る場面すら訪れませんでしたからね。そこのところをちゃんと理解して、濁を飲める男だから、このライルという主人公は大人で好きだなあ。
魔物と人間の間には子供が出来ない、というのがこの世界の法則らしくて、その辺微妙に残念だなあ、とも思うのですけれど、魔物と人間の種族間問題に混血の問題まで打ち込むのは避けた、という事ならまあ納得する他ないか。クーベルネはどう見ても被保護者枠なので、ヒロインほんとに居ないのな。
でも、そういうの抜きでも文句なしに面白かった。読み終わったあとに思わずほえほえ〜と放心してしまったほどガッツリ満腹感を感じさせてくれる出来物でした。超おすすめ。