きんいろカルテット! 1 (オーバーラップ文庫)

【きんいろカルテット! 1】 遊歩新夢/DSマイル オーバーラップ文庫

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黄金の音色を奏でる、4人の少女―――
オーバーラップキックオフ賞「金」賞、受賞! !

「このみんなでずっと吹きたかったんです。私、目標があるんです」
ユーフォニアムという楽器の演奏者である摩周英司(ましゅうえいじ)は、恩師の紹介で中学生の少女たち4人の楽器コーチをすることになる。
清楚で真面目な菜珠沙(なずさ)、元気な性格の貴ノ恵(きのえ)、しっかりものの美夏(みか)、上品でおとなしい涼葉(すずは)。
「ブリティッシュ・カルテット」と呼ばれる日本の吹奏楽では馴染みのない楽器を演奏する少女たちに英司は感動し、彼女たちが最高の四重奏(カルテット)を奏でられるように奔走する。
心に響く青春音楽ストーリー、演奏開始!
ユーフォニアムって楽器は知らんかったなあ。名前からとっさに鍵盤楽器かと思ってしまったのだけれど、金管楽器なのね。ちなみに、表紙の女の子が持っているのがそれです。
作者は本物のプロのユーフォニアム奏者らしく、本編にもその知識と経験が遺憾無く発揮されている。逆に、だからこそか物語も登場人物たちも裏表もない凄く素直でストレートな綺麗なお話なんですよね。悪役の人も、ある意味素直なくらいな悪役で、ここまで真っ直ぐな話だと正直ちょっと照れくさくなるやら、ついつい斜めから眇め見てしまおうとする自身の性根に苦笑を感じてしまったり。でも、本当に素直な流れなので、取り澄ましたような青臭さは感じなくて、スッと淀みなく気持ちが伝わってくるお話でもありました。あんまり青臭いと、つい反発心が湧いてきたり、斜に構えてしまうんですけれど、こうも素直に来られると、ねえ。
それに、音楽に対する情熱、そう素晴らしい音に感動し、サウンドに対してのめり込んでいく、夢中になっていく少女たちの、それを導いていく大人たちの熱量には、ただただ感動し見守る気持ちしか生まれませんから。
純粋な情熱ほど、人を魅了するものはありません。

ただ、主人公の英司が若干十八歳の若者、というのは些か無理があったんじゃないでしょうか。18歳というと、どれだけ大人びていても、まだ未成年の経験の乏しい少年から青年になろうという時期の子供です。ところが、この英司青年の中学生の少女への対応の仕方や、周りに示す見識、周囲に対する落ち着いた態度など、どう見ても18歳どころか、もう十年ほど年齢を足した28歳くらい、と言われないと納得が行かない大人な立ち回りなんですよね。個人的には、二十代でもちょっと信じられない。よほど社会で揉まれた三十代くらいでないと。すみません、自分三十越えてますけど、こんなに大人じゃありませんから。
それにね、この英司くんの示す音楽への情熱って、やっぱり子供のものとは色が違うんですよ。様々な経験をしてきた大人が燃え上がらせる純粋さ、なんですよね。ここらへん、子供の純粋な情熱とは色も景色も違う。彼が抱えている喪失の痛みも、大人がずっと抱え込んできた痛みであり、彼が流した涙も吐露した思いも、過去と現在を隔てる年月に相応の経過を感じさせるものだったんですよね。あの男泣きは、大人でこそ似合うものですよ。
それにね、はっきり言って、十八歳の小僧がこれほどまでに素晴らしい指導を、教育を、後進に未来を示すことが出来るなんて信じられないです。それくらい、彼の菜珠沙たちへの指導は、何年も子供たちに教えてきた年輪を感じさせる熟成された行き届いた素晴らしいものでした。ってか、高校卒業したばかりのガキにこんな指導されたら、先生みんな形無しですよ。
なので、読んでいる間は彼を現役大学生とは全然認識せず、もう大学の講師か准教くらいのイメージで読んでました。そうでないと、ほんとにしっくりこなかったので。
現代の日本の音楽に対する教育の姿勢に対する問題提起は、なるほどなあ、さもあらん、と思うこともしばしば。なんとも日本らしい硬直性は、音楽という分野にもかくも及んでいるわけだ。この国は芸術というジャンルの持つ本質的な柔らかさを、根本から無視するのがホント好きですよねえ。こればっかりは、大昔からなんでしょうけれど。同時に、それを良しとしない人たちもその現場から常に現れ続けているのも、この国の素晴らしさな気がしますけれど。ただ、常に可能性を潰される環境がそこにある、というのは、いくらその環境に屈さず芽を出し突き破ってくる逸材が出てくるとはいえ、あまりにももったいないし、哀しい話ですよね。
教育の根本は、否定することにあらず、というのをしみじみと実感させてくれる話でもありました。若干、ロリきゅーぶ!を意識しているようなシーンもありましたけれど、まあそこら辺は余分だった気がします。