B.A.D. 12 繭墨は自らの運命に微笑む (ファミ通文庫)

【B.A.D. 12.繭墨は自らの運命に微笑む】 綾里けいし/ kona
ファミ通文庫


Amazon

「そう、繭墨あざかと小田桐勤――――――――最後の事件だよ」

「小田桐君、何故、内臓は落下するんだと思う?」再び内臓落下事件が起きた。
いつかどこかで見た怪異を、繭墨は紅い女の罠だと言い、反撃の切っ掛けになるかもしれないと涼やかに笑った。
最近の繭墨はなんだかいつもの彼女らしくない。
人の死を嗤い、不幸を悦び、惨劇を望む最低で最悪な少女。
それでも僕は彼女の力がなければ生きられず、だからこそ救わねばならないはずだったのに……。
残酷で切なく、醜悪に美しいミステリアス・ファンタジー第12弾。
思い返してみれば、小田桐くんの善意の行動は、幾度も幾度も裏目となり、余計に事態を悪化させ、引き金となって惨劇を起こしてしまう結果になることばかりでした。どれだけの犠牲者が、惨たらしい最後を迎えてしまったのか。彼の偽善のせいで、何人の死者が生まれてしまったのか。それでもなお諦めず、懲りず、飽きずに、人を救おうと、命を助けようとし続けた小田桐くんの精神はもはや狂気の淵に佇んでいるものだと思えるほどでした。
何度も無駄に終わり、無為に終わり、無力に打ちのめされ、のたうちまわりながら、それでも泣き叫ぶように、呪うように生命を繋ごうとした彼の足掻きは、ああ無駄ではなかったのです。何人もの人が死んでいった中で、僅かながらも生命をつないでくれた人たちが居たのです。小田桐くんが行動しなければ、絶望に暮れて憤怒に塗れて生命を捨て去り踏み躙ってしまったであろう人たちが、僅かながらも生き残ってくれていたのです。
小田桐くんの偽善は、決して無駄ではなかったのだ。その証拠となる人たちが、小田桐くんを助けるために集まってきたのを見て、思わずこみ上げてくるものがありました。これまで、読み手である自分も何度も小田桐くんが事態をこじらせ、藪蛇となり、彼のせいで人が死んでしまうケースを何度も見せつけられていたため、この物語は救われないことが前提なのだと、思い知っています。塗り込められるように、刻み込まれるように、バッドエンドを見せつけられてきたのです。だからこそ、そんな悪夢塗れの中に、奇跡のように繋ぎ止められたものがあると示された時、思いもよらぬほどの感動が生まれてしまったのでしょう。
どのケースも、破綻しか見えない事案でした。いつものように、いつもよりも最悪に、目も覆わんばかりの救いのない結末が訪れるのが必然ともいうべき状況ばかりでした。
それなのに、白雪さんも、雄介も、久々津も舞姫も、生き残って、生命をつないで、その上人に戻ってくれたのです。救われてくれたのです。その上で、救われたのは小田桐くんのおかげなのだと、彼を助けるために駆けつけてくれたのです。なんて、奇跡なんでしょう。彼は、報われたのです。
そして、繭墨あさと。狐と呼ばれた、一度は怪異にまで変じてしまった堕ちた形骸。彼をすら、小田桐くんは最後に人にまで戻してみせたのです。正直、狐までをも助けた時には、こいつは正気か、と愕然としたものでした。狐がやった事は、彼が地獄に百度落ちても濯げないほどの惨たらしい惨劇ばかりで、彼の引き起こした悪夢の犠牲者は、本当に数えきれないほどで……何より、この男が心を入れ替えるなどあの当時、とても考えられないことでした。繭墨あさとは、壊れ果てた末に人間であることをとうの昔に辞めてしまった化け物だったはずなのに……。
この巻で小田桐くんの前に立ちはだかった彼は、どうしようもなく人間で、小田桐くんが学生時代に親友と信じて疑わなかった男、その人でしかなかったのです。
あれほど何も成せない偽善者でしかなかった小田桐くんが、いつの間にかこれほど多くを成せていたんだなあ。でも、だからこそ、そんな彼にすべてを捧げてしまった綾が、今居ないことが辛くて、哀しくて。
七海が、泣いちゃったじゃないか……。怒って、泣いて、傷ついて……。
ちゃんと、綾のことを七海に報告するシーンがあったのは良かったんだけれどさ、辛すぎるよこれ。辛いよ。

傷ついて、傷ついて、それでもしがみつくように繭墨あざかを助けようとする小田桐くん。彼女は決して救われるに足る善人などではなく、救いがたい邪悪だと小田桐くん自身もが認めながらも、それでも彼女が運命に負けて死んでしまうことを許そうとしない。認めようとしないのだ。
私は、言うほどあざかが邪悪とは思わない。彼女は惨劇を好むのかもしれないが、少なくとも彼女から惨劇をつくろうとしたことは一切ないし、惨劇を助長しようと導いたこともない。いつも、彼女はただ傍観するだけで決して手を出そうとしなかった。いつだって、事態を最悪の方向に導いていったのは、小田桐くんの方だった。最悪を目の前にして茫然自失する小田桐くんを、繭墨あざかは嘲笑うでもなく、慰めるでもなく、ただただ現実を突きつけて、しかし突き放さなかった。いつだって、彼女は小田桐くんに好きにさせ、彼を見守り続けたのだ。
彼女は優しくなんてなかったかもしれない、でも彼女の冷たさは優しさだったように思える。そんな彼女が邪悪なものか。
だから、小田桐くんはあきらめないでいいのだ。いつものように、みっともなくあがけばいいのだ。
最後の一文、彼の決意を目にして火が灯った。そう、それでこそ、その無様さこそ、小田桐だ。
頑張れ、小田桐。最後まで。

シリーズ感想