ココロコネクト アスランダム 上 (ファミ通文庫)

【ココロコネクト アスランダム(上)】 庵田定夏/白身魚 ファミ通文庫

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“ふうせんかずら”が五人に終わりを告げて四カ月。―その異変はクラスメイトから起きた。唯の友人が、太一たち文研部を見て怯えるような態度を取り始める。さらに五人は、時折生徒の話し声が聞こえなくなるという不思議な感覚を味わう。終わらない現象に落胆しながらも、『他人から敵視される・隔絶される現象』だと推測するメンバー。しかし時を同じくして五人の中では一時的な記憶の消失が起こり始め…。愛と青春の五角形コメディ。最終章、開幕


ココロコネクト アスランダム下 (ファミ通文庫)

【ココロコネクト アスランダム(下)】 庵田定夏/白身魚 ファミ通文庫

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この世界では、全ての人間に現象が起こっている。

目を覚ました時、太一は一人でグラウンドにいた。
人気もない薄暗い校舎を怯えながら走る内に、ようやく伊織と合流。そして仲間を探すうちに、二人は気づく。
外に出ることが出来ない『孤立空間』――そこで出会った生徒たちすべてに、現象が起きていると。
百人もの生徒を積極的に取りまとめる生徒会長の香取、強制終了を避けるために動く文研部員たち。
だが現象が長引くにつれ、そこには不穏な空気が漂い始めていた――。愛と青春の五角形コメディ、完結。



いくら五人が一致団結していても、その絆が揺るがなくても、もし問題が五人以外の外側で起こったなら?
魔窟の底に埋もれてしまっていたシリーズ最終上下巻を、ようやく、ようやく「偶然」発掘して、機を逃さず読むことが叶いました。いやあ、一度読み逃してからいつ読もういつ読もうと後回しにしていたら、まさか一年以上積んでしまうことになるとは思わなかった。
さて、前回外からの攻撃には一切揺るがぬ無敵さを見せていた文研部に対して、ふうぜんかずらが仕掛けてきたのはヘキサゴンの内輪での対立。しかし、これも何とかクリアして「ふうせんかずら」から終了宣言を勝ち取った五人だったわけだけれど、まさかの延長戦が彼らの身に降りかかる、というのは正確ではなく、実際は彼ら以外の身に降りかかってきた、というのが正しい。そう、今度は文研部の五人を他所において、違う人達に現象が見舞い始めたのだ。いくら五人の絆が無敵とはいえ、あくまでそれは五人の内でのこと。彼ら以外の人たちに対して彼らが成せることというのは、こうして外で現象が起こってみると思いの外少ないことがわかってしまうのである。
この五人、社交性が低いということはなく、むしろ文研部以外にも多くの友達がいる子たちなんだけれど、いざ、ふうせんかずらやその同類の起こす問題に携わるとなると、どうしてもこれまでと同じく、五人の内だけで頑張ろうとしてしまうわけである。
……実際は今回の一件は五人の内部で起こっていることではないので、決して五人の内輪だけで抱えるべきものではないにも関わらず、これまでの癖というか慣れというか、絆の深さが逆に他の人たちとの間に壁を作ってしまっていて、誰かに相談するという発想が生まれず、ひたすら自分たちの中だけで足掻こうとしてしまってるんですね。
しかし、自分たちが頑張れば何とかなったこれまでと違って、外で現象が起こっている今回の一件では、彼らは打開策を見つけられずに精神をすり減らしていくばかり。完全に行き詰まってしまったわけです。こうなってくると、五人の絆というものはむしろ五人に孤立感をもたらすものへとなってしまってるんですね。
そんな彼らに、貴方たちは貴方達だけじゃないんだよ、と手を差し伸ばしてきたのが、無意識に五人という殻に篭ってしまっていた彼らに、外から風穴をあけてくれたのが各々の家族だったわけです。五人とも、イイ家族に恵まれてたんだなあ。一番こじれていた伊織のところも、結局お母さんは一番娘のことを考えてくれていたわけで、今回だってすぐに娘の異常に気づいて動いてくれていたわけですからね。

とまあ、家族の精神的な支えと後押しを受けて、現象に関わる記憶が消されてしまうという危機に真っ向から立ち向かう勇気を得た五人は、ふうせんかずらの協力を得て3番目たちが作った「孤立空間」へと突入するのでした。
というのが上巻までで、下巻では孤立空間に閉じ込められ、現象に見舞われている学校の面々の中に入り、事態を打開しようと動き出すことになるのだけれど……結局、ここでも前回家族の支え、という形で示唆された五人だけで完結することの危険性に対して、太一たちは気づかないまま状況にあたってしまうわけだ。
実のところ、特に下巻に関しては五人の個々について書く事ってかなり少ないんですよね。殆ど、五人まとまった文研部として、行動も考え方も統一されてしまってる。これまで現象に立ち向かう上で武器となった一人ひとりの個性が殆ど生きていないのだ。お陰で、はからずも周りの人間たちからも、太一たちは文研部として一括りに認識されてしまう。それはケースによっては有力な一団として強力なアドバンテージになったかもしれないけれど、個々の姿が見えてこないことはやがて不信へと繋がっていってしまうのである。
結局、ギリギリまで太一たちは自分たちとそれ以外、に分けて隔てて考え動いてしまってたんですね。本来、五人に生まれたような絆を、この孤立空間に巻き込まれた全員に広げなければならなかった状況において、彼らは五人という内に篭ってしまっていたわけだ。かつて太一たちが経験した「現象」で、独り自分の内に篭って周りの人とぶつかろうとしなかった者の声が、他の四人に届かなかった時のように。この時の太一たち五人の声は、本当の意味で周りの人達の心には届いていなかった。個々の顔の見えない文研部という一団の声は、理性には届いても心には響かなかったのである。切羽詰まり追い詰められた人たちの心は理屈では割り切れないものがある。だからこそ、いくら正しい言葉でも、異常な状況の中で吐かれる正しい言葉だからこそ、そこに不信が生まれてしまったのだ。
だから結局、答えは、打開策は、ある意味いつもと一緒だったんですよね。
いつもとは全く違う混沌とした展開に見えて、ココロコネクトというタイトルに基づく内容はこれっぽっちもブレていなかった、と思えば、やはり大したものだと唸らずには居られない。
ただ、でもね、これだけ太一たち五人の個々の輝きが見えないと、話としていつものレベルの深く掘り下げまくった面白さには及んでいなかったように思うわけですよ。いつの間にかキャラ立ってたクラスメイトたちも、上巻の冒頭では生き生きとしていたのに、その後クライマックスまでせっかくのキャラ立てが勿体ないほど、あの孤立空間では存在感がなくなってしまっていましたし。
こうなってみると、日常での肩肘やらないやりとりの、みんなの輝きっぷりは眩しかったなあ。
なるほど、最後の最後にもう一回短篇集を出してシリーズを締めることにした意図は、那辺にあるのかもしれない。