D9―聖櫃の悪魔操者― (電撃文庫)

【D9 聖櫃の悪魔操者】 上野遊/ここのか 電撃文庫

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“終末の厄災”より千年―悪魔と魔法と失伝機械群が支配する大陸ファラディース。少年ソーマは、美しき少女悪魔メルヴィーユと契約し、共に世界を旅している。悪魔を召喚し、故郷を滅ぼした実の兄を探して。旅の途中、ソーマの兄の手掛かりを得るため、二人は高名な悪魔学者が住む街デルナに立ち寄る。異国のメイドと、父のような悪魔学者との出会い。そこで二人は、街を揺るがす大事件に巻きこまれてしまう。悪魔憑きの少年ソーマと、少女悪魔メル。その旅が“世界の命運”を握ることを、二人はまだ知らない―!

これって、読んでみないとわからなかったんだけれど、濃厚にウエスタンの風味がありますよね。荒野モノ、というべきか。しかも、高次科学が罷り通っている西部劇。トライガン、みたいな感じの。つまり、ウエスタン・ファンタジーに見せかけたSFである。
こういう荒野モノは無条件に大好きなんだけれど、それだけでなく上野さんの丁寧な構成が光ってる。この人もいい加減ベテランの領域に入ってきたんだけれど、さすがにここまで生き残ってきただけあって安定性が抜群になって来た気がするんだが、何故か人気に結びつかない不思議。今回は絵師さんもいい感じに肉感的に魅力的なヒロインを描ける人なので、イラスト面からも隙はないと思うんだが。カラー口絵、ご馳走様でした。いや、マジでエロいです、あのプニプニっとした肌感触は。自分、若干ふとももフェチのきらいがあるので、あの絵はドストライクでしたよ、うんうん。
さて、荒野の定番と言えばもちろん大陸横断鉄道である。ぶっちゃけ、馬は居なくてもいいけれど必然なのは鉄道なのよね、ウエスタンって。SFだろうとファンタジーだろうと生粋のマカロニだろうと、鉄道は必須。それを冒頭から持ってくるあたり、抑えどころを心得ております。鉄道が襲撃を受ける所まで。もっとも、襲ってくるのは鉄道強盗やネイティブではなく、この作品の場合「悪魔」と呼ばれる怪物たちなのですが。
その悪魔たちは、どうやら世界各地の伝承や神話に出てくる高名な怪物たちで、厳密に一神教の聖書によって悪魔認定されている存在だけじゃなく、キリスト教関係ない神話体系も引っ括めて全部悪魔扱いされてるんですよね。この見境なさには設定の丁寧さに対して大きな違和感を感じていたんだけれど、どうやらこの悪魔たち、オカルトサイドとは厳密には言いがたいみたいなんですよね。そのカギを握るのが、記憶喪失のメルヴィーユ。
わりとチラホラと見た覚えのあるパターンだと推察されるんだけれど、そうなるとかなり壮大な話になりそうで、むしろワクワクしてくる。できれば、このまま大風呂敷広げていって欲しいなあ。ここで出会った悪魔学者がああいう形になっていたということは、話としては膨らまずにこの場で収まってしまった、というわけでもありますしね。
いや、ファムの正体が謎なので、彼女とつなぎがつけられただけで、外枠とライン繋がったのかもしれませんけど。
キャラクターに関しては、最初の方はどうもまだ動きがぎこちなかった感がありました。これは、必ずしもメルとソーマがうまく行っていなかったのが原因なんだけれど、メルはソーマに対してベタボレなのに対してソーマがメルに対して距離を置いてたんですよね。素っ気なさがかなり本気だったので、ベタベタがイチャイチャにならずにあんまり良い空気にならなかったんだなあ。
これが改善されたのが、ファムが絡んできたからなのです。ファムがメルを悪魔と知りながらも対等の立場で突っかかってきたもので、顔を合わせれば口喧嘩の大喧嘩の繰り返しになってしまったんだけれど、それでメルがイキイキと活力を得だして輝きだしたのでした。それに合わせて、ソーマもメルに対して普通の女の子に接するような気遣いや優しさが垣間見えだし、突き放すにしても阿吽の呼吸で心を許した掛け合いの一貫として、のものになってきたんですよね。
正体不明の謎の女なファムですけれど、思いの外人間関係に化学反応を起こしてくれました。これで、彼女の正体がストーリーに深く関わるものだったら、さらにおもしろくなってくるのですが。

ともあれ、まずははじまったばかりの導入編。世間から白い目で見られ、殆どお尋ね者同然という状態もあって、このままダークヒーロー路線に行くのかどうなのか。二巻の舵取りが楽しみなところです。

上野遊作品感想
高次科学が罷り通っている