灰と幻想のグリムガル level.2 大切じゃないものなんか、ない。 (オーバーラップ文庫)

【灰と幻想のグリムガル level.2 大切じゃないものなんか、ない。】 十文字青/白井鋭利 オーバーラップ文庫

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ネームドモンスター、デッドスポットとの死闘!

……見捨てるなんて、できない。というか、見捨てるべきじゃない、と思う。
見知らぬ世界「グリムガル」へと連れて来られたハルヒロたちは経験を積んでようやく半人前から抜けだそうとしていた。
ステップアップのために新たなダンジョン「サイリン鉱山」へと挑むのだが、そこはパーティに加わったメリィが過去に仲間を失った場所でもあった。
順調にいくかと思われたハルヒロたちの探索だったが、予期せぬ仲間との別行動を強いられ、更にデッドスポットという異名を持つ巨大なコボルドが襲いかかる。
新たな試練とともに、灰の中から生まれる冒険譚の第二章が紡がれる!
ああ、【大英雄が無職で何が悪い】のキサラギとイチカとモモヒナは、ハルヒロたちの後じゃなくて直前だったのか。あの三人、すぐに街を出て行ってしまったので、話題にはなっていないだろうとは思ってたけれど。
ちなみに【大英雄が無職で何が悪い】はウェブ公開されている上記した三人のもう一つのこのグリムガルでの冒険譚、いや英雄譚であります。正直、ハルヒロたちと同じ世界観なのかと愕然とするくらいガンガン進んじゃってるんですけどね、この子たち。本作がアリアハン近郊でずっと頑張ってるとするなら、キサラギたちは猛スピードでイシスかポルトガあたりまで突っ走ってるような勢いで、なんか見ている景色が全然違うんですよね。ハルヒロたちの目には別格に写っているレンジたちとすら、異質と言っていいパーティーになって大暴れしてますし。最初はほんとにいけ好かない口先だけの男に見えるキサラギですけれど、後半行くに連れて色んな意味でべらぼうに痛快になっていくのでオススメ。
ある意味、内向的で逡巡を続け繰り返す作者の主人公を反転させたようなキャラなんですよね、キサラギって。ちょっとした実験でも合ったんだろうか。
そして、本作の主人公であるハルヒロは、いわば作者のお手の内にあるだろう、自分に自信がなくて悩んで悩んで何度も失敗しながら、それでも諦めずに一つ一つ積み重ねていく主人公です。薔薇マリのマリアよりもひねくれてない分、素直で強がれなくて、だから苦労しそうなんですよね。なかなか開き直れない性格みたいですし、背負い込みやすいところがありますし。
リーダーなんて、性に合わない人にとっては苦痛以外のものではありません。正解が見えない中で判断を強いられ続ける、周りの人たちにあれこれと指図する、というのは大変ですし精神的にゴリゴリと削られていきます。それでも責任感が強い人は投げ出せないのです。小心で先の読める人も同じく、自分が投げ出してしまえばどうなるかを想像できてしまうと、怖くて投げ出せなくて、どんどん追い込まれていってしまうものです。せめて周りの人たちが自分たちなりに積極的にサポートしようとしてくれると、大概にして何とか回ってくれるものなのですが……このパーティーの場合、ランタが無茶苦茶に引っ掻き回してくれたものだから、行き詰まるとまではいかないものの、どうにも先行きの見えない停滞気味の状態になってしまっていました。
という風に見えたのは一方的な視点だったんでしょうね。自分勝手で口も悪く他人を口汚く罵り考えなしに動きまわるランタは、チームワークをかき乱しているばかりのように見えていましたけれど、実際は彼なりに考えていたものがあるのですから。もっとも、ハルヒロの言うように自分なりの考えというものは言ってくれなければわからないものですし、ランタの言動は本当に酷いもので、誤解されても仕方ないし誤解じゃない部分も多かったですしね。こいつはなんとかしなきゃいけない、じゃなくてこいつは排除しなきゃいけないんじゃないか、という考えが芽生えてくるのは仕方ないどころか当然だったような気がします。
もっと短絡的な、理性よりも感情を優先する子たちとのパーティーだったら、とっくに追い出されてるか後ろから刺されてるレベルだったしなあ。
しかし、大きい視点で見ると確かにランタは自分勝手ではありましたけれど、ちゃんとパーティーの一員として役立ってましたし、自分の役割というものを生み出して、そこに座ってはいたわけであります。ハルヒロは偉いですよ。なんだかんだと苦労しながら、ちゃんと視点を高く持ってランタの役割を見出していったわけですから。あの状況で好き嫌いで判断せず、常にリーダーとして考えを巡らすというのは簡単じゃありません。どれほど拙くてもリーダーであり続けようとするのは、以外なほど難しい事なのですから。メリィをはじめとする他のパーティーメンバーが、マナトの代わりに就任した頼りないリーダーであるハルヒロに対して何だかんだと大きな信頼を寄せているのは、それだけハルヒロが頑張っている事を認めている事の証左でしょう。同時に、ただ頑張っているだけじゃなくて、拙くても頼りなくてもハルヒロがちゃんとリーダーとしての役割を果たしているからこそ、みんなも彼を認めているわけです。名実ともに、このパーティーはハルヒロを中心としてまとまり、ランタという異物に対しても活用出来るだけの観点をハルヒロが持つに至ったことで、本当の意味でパーティーは結実したんじゃないでしょうか。
まだまだ弱くてみすぼらしいパーティーですけれど、こうして着実に一歩一歩前に進んでいる姿は、ちょっとまぶしいくらいです。頑張れ、若者たち。

1巻感想