ロムニア帝国興亡記II  ─風車を回す風─ (富士見ファンタジア文庫)

【ロムニア帝国興亡記 2.風車を回す風】 舞阪洸/エレクトさわる 富士見ファンタジア文庫

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帝国全土を駆け巡る“皇帝崩御”の報せ。ある者は己の正統性を掲げ、またある者は野望のため、あるいは大義のため―群雄たちが立ち上がる。一方、その群雄に埋もれる“うつけ皇子”サイファカールが示した指針とは、皇太子に叛旗を翻す者を討ち、反乱の意思をみせず、密かに勢力の拡大を図ること。だが、それには大きな問題―圧倒的な兵力不足があった。「少数でも問題ない。さて、皆には侍女服を着てもらうおうか」突然始まるステラステラ、リ・イン、ネムネモの侍女修行。“うつけ皇子”の狙いとは?それとも、ただの思いつき?群雄たちが野心を明らかにする時、帝国の興亡が決する!?

皇帝崩御、場合によっては皇帝自身の何らかの策謀かとも推測したのだけれど、この事故の状況鑑みるに完全に不慮の事故じゃないですか。皇帝一人だけが事故死したならともかく、外国要人含めて閣僚クラスや近衛の人間にも犠牲者が出ているとなると、自作自演はちょっと疑えない。
となると、本格的に混乱がはじまってしまうんだけれど、事故後の対応を見ていると皇太子サイドの動き方が本当に最悪に近いのがわかる。うーん、こればっかりは現状認識の問題なんだろうけれど、皇太子はこれ、各地に散らばっている自分の兄弟や麾下の将軍を敵と認識、或いは危険を判断していなかったんだろうな。危機感をまるで持っていなかったが為に、凄まじい勢いで後手に回りつつある。本来なら、皇太子という立場は図抜けたアドバンテージで、それを利用して圧倒的なまでのイニシアティブをとり続けて、他の兄弟達が変な動きをする前に問答無用でねじ伏せる、そもそも反乱の芽すら芽吹かないような率先した立ち回りが、皇帝の死という情報をいち早く握っていた彼には出来たはずなんですよね。他の連中が皇帝の死を知った段階で、もう既に身動きが取れない、下手なことをスレば即座に潰される、くらいの状況を作り出すことは立場上できていたはずなんだが……そういう立ち回りが必要という認識すら持ってないようじゃあ、そりゃどうしようもないわなあ。宰相も、皇太子を動かせないにしても、自分の権限のうちでもほぼ何もできていないという時点でフィクサーとしては失格。お陰で、あっちこっちで様々な勢力がくびきから解き放たれて自由に動き出したわけだけれど……その中でもサイファカールは皇太子どころかほぼ誰からも脅威として認識されていないが故に、一番自由に立ち振る舞える立ち位置に、地理的にも勢力的にも情報的にも立っていたわけですね。この場合、下手に兵数や支配地域が大きくなるのは目をつけられて横槍を入れられる分、不自由さを増すばかりで、むしろここで彼は矮小であることを逆手に取って、一番高い位置から先手先手で手を繰り出し、大戦略の壇上にほぼ唯一あがって、情勢に介入、操りだすことに成功しているわけです。
繰り返しになりますけれど、現状では勢力が小さいことそのものは殆ど意味ないんですよね。まだ、一応表向きは帝国は存続していて、戦時には突入していないという建前ですから、まだ今のところ大軍を自前で動員できるというのは絶対的な意味を持つわけではないのです。帝国という枠組みの権威と秩序はまだ崩壊していませんからね。この点をサイファカールは正しく認識していて、彼の配下たちは既に帝国は崩壊したものとして捉えているがために皇子の思考に対する深い理解がなかなか及ばず、逆にドゥールドォール将軍は激変しつつある帝国の現場に認識が追いついていない、或いはしがみついているがために、これまでどおりの行動規範、判断基準で動いたが為に、サイファカールの戦略にうまいこと組み込まれることになったわけです。
この、視点のあり方でコロコロと同じものを見ていても全く違って見えている様子は、傍から見てると面白いなあ。
さて、とはいえ帝国の秩序の崩壊は既に秒読み段階。皇太子が動かず、各地の皇族たちが野心をむき出しにして動き出した以上は、一挙に乱世さながらの様相に逆戻りなのは必定。とはいえ、まだ大義名分が機能しているのはロキシーヌが皇太子打倒ではなく、宰相の排除を名目に掲げて決起したことからも明らか。そして、サイファカールはとりあえず体制側にあって秩序を回復するという名目で利用できるものは限りなく利用し尽くす、という立場を取るようなので、馬鹿正直に決起する連中に比べてそりゃもう、口八丁手八丁の性格の悪い立ち回りを見せてくれそうで、いろいろな意味で楽しみです。こいつは作者の手がけた主人公の中でも特に容赦や甘さのない野心満々の腹ぐろみたいなので。

1巻感想