GOSICK -ゴシック- VIII 上 ゴシック・神々の黄昏 (角川文庫)

【GOSICK VIII 神々の黄昏(上)】 桜庭一樹 角川文庫

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クリスマス当日、ヴィクトリカが所望したのは、15個の謎―必死で謎を集める一弥は、村に起こりつつある異変に気づく。それは、大いなる変化、すなわち“2度目の嵐”の前触れにほかならなかった。迫る別れと、自分の運命を正しく予感したヴィクトリカは、一弥にある贈り物をする。一方首都ソヴレムでは、ブロワ侯爵が暗躍、娘ヴィクトリカを武器に権力を握ろうとしていた―大人気ミステリ怒涛の最終ステージへ。


GOSICKVIII下‐ゴシック・神々の黄昏‐ (角川文庫)

【GOSICK VIII 神々の黄昏(下)】 桜庭一樹 角川文庫

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監獄“黒い太陽”に幽閉されていたヴィクトリカは、母コルデリアの身代わり計画により脱出。ロスコーとともにソヴュールを離れて海の彼方へ。徴兵された一弥は、彼女を想いつつ戦場の日々をひたすらに生き延びてゆくが、ある日の敵襲で…。アブリルに、セシルに、グレヴィールに、古き世界に大いなる喪失と変化が訪れる。その先に待つものは?そしてヴィクトリカと一弥に再会の日は…!?大人気ミステリ、感動の完結編。


ええ!? この【GOSICK】シリーズって、こんなファンタジー全開な世界観だったの? 古き神々云々は、単に比喩表現で、古からの伝統を守り続けている人たち、文化の違いに基づく話だと思ってたのに。

角川ルビー文庫から出版される武田日向さんの美麗なイラスト付きのシリーズを待ってたら、いつの間にか何年も経っていて、ついには続編となるシリーズまで始まってしまったので辛抱たまらず、角川文庫版を引っ掴むことになってしまいました。もう出ないんかなあ、挿絵付き。
一応おおまかな流れは、アニメを見ていたので把握はしていたんですが、えらいぶっ飛んだ内容だったのでかなり「???」が飛び交ったまま記憶の淵に沈んでいたのですが、どうやらあれ、おおむね原作のままだったんですね。この最終巻だけはミステリーという体裁についてはもう放置しているようで、ひたすらにヴィクトリカと久城くんの、運命の大きな流れに引き裂かれる別れと、歴史の波に攫われながらも必死に再会に辿り着くまでを描いたお話になっている。もう、これ大河なラブロマンスだわねえ。
久々にこの人の作品を読んで思い知ったけれど、やっぱり桜庭さんの甘やかで品があってややも軽やかで優美な文章表現には、思わずため息が漏れてしまいます。ストーリー自体は乱暴と言っていいくらいにぶん回していると思うんですけれど、語り口の蕩けた甘美さが物語をオペラのように彩り仕立てあげたかのようになっているのです。
激動する世界の中で、揉みくちゃにされ轢き潰されそうになりながら、無力な一個人として翻弄されながら、ひたすらに足掻き藻掻き歯を食いしばって生きよう、生きようとする少年少女達。久城、ヴィクトリカ、そしてアブリル。セシル先生に、自分の運命を生きる決心をつけたグレヴィール。皆の必死な息遣いが伝わってくるような、それでいてゴシック調の古い屋敷のような厳かさが失われない、生々しさと非現実的な淡さが明滅している不思議なお話でもありました。
ぶっちゃけ、ここで描かれてる第二次世界大戦って、現実のWW2とは明らかに違います。なにしろ、年代からシて10〜20年近くズレてますし、ハッキリ言ってヴィクトリカの用いられ方では、総力戦においてそこまで絶大な威力は発揮できないですし、史実の日本の学徒出陣でも久城の年齢は徴兵はされてなかったはずです。
まあ世界そのものが違うのでしょう。ソ連もないみたいですし。つまるところおとぎ話の戦争です。
しかし、それでも世界を戦火に巻き込む世界大戦であり、それこそが必要な舞台装置だったのでしょう。少年少女の絆を引き裂き、しかしその運命に負けずに再びお互いを取り戻すための、必死になって繕うものを剥ぎ取られ、お互いを懸命に求める心をさらけ出すために必要な、大きな波としての意味合いを。
つまるところ、意地っ張りなヴィクトリカを素直にさせるためには、久城くんが死ぬほど大好きだ、というのを認めさせるために、これくらい大きな障害が必要だったわけですな。
世界を巻き込むくらいの戦争が必要なほど素直じゃない、というのも、まあ大層な話です。さすがはヴィクトリカ先生。
個人的にはお兄ちゃん、グレヴィールが頑張った、汚名返上してくれて良かったです。最後の最後に、兄として妹を送り出してくれたのは嬉しかったなあ。なんだよ、いい兄妹じゃないか。
そして、アブリル。彼女には幸せになって欲しい。この子はこの子でつらい目に遭いすぎだよ。できれば、新シリーズではあの二人に再会して欲しいのですけれど。セシル先生も含めて。

ともあれ、エピローグで久城くんが堂々とヴィクトリカを「妻です」と紹介していたことに、もうこれで十分満足できました。いや、新シリーズも読みますけどね、文庫落ちまで待つでしょうけれど。しかし、ヴィクトリカは結婚しても、久城くんを久城呼ばわりなのか。これはこれで萌えますけどね。

桜庭一樹作品感想