ログ・ホライズン7 供贄の黄金

【ログ・ホライズン 7.供贄の黄金】 橙乃ままれ/ハラカズヒロ エンターブレイン

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シロエは、八兆の金貨を求めて北の大地に旅立った。だが、そこで突きつけられたのは大規模戦闘(レイド)の予告。

アキバを頼れない状況下で、シロエがレイドメンバーに選んだのは、自称銀河系アイドルのてとら、<円卓会議>入りを拒んだマサチューセッツ率いる<シルバーソード>、ススキノでの戦闘に敗れ、未だシロエを恨むデミクァスら。

一度は別の道を進んだ男たちが協力し、最難関のレイドに挑む。
前人未到の地へ軍師シロエの真骨頂!!
あれ? 濡羽さんラスボス候補じゃなくて、本気でヒロイン候補だったのこれ? ミナミでの立場が思いの外脆いというか、これじゃあ傀儡みたいじゃないか。もっと俗な意味で黒いのが調子乗っているのがいるみたいだけれど、これは小物の範疇を超えるとは思わないので置いておくとして、対決するべきはシロエが感づいている第三極、そして濡羽が構築してしまったミナミの価値観か。真の敵は、これもさておくとして、当面ぶつかり合うことになるだろうものは、どうも決定的に食い違ってしまったアキバとミナミの、この世界へのスタンスというか、考え方、生き方の鬩ぎ合いになるんだろうなあ。
いずれにしても、衝突の前振りとして、シロエの行動はこれ本当に大事なことになりそう。8兆ってなんぞ、と思ったら、そうか、ラストにその答えが出てようやく腑に落ちた。確かに、これは以前から危惧されていた問題でしたよね。ただ、根幹に纏わる問題だけに、これは「そういうもの」として受け入れなければどうしようもない、とそこで思考停止していたんだが……スゴイなあ、それを「そういうもの」として考える事を止めてしまわないのが、このシロエという青年のとんでもないところなんだろう。そもそも、円卓会議の設立からして、「現状を変える」という事の意味を他の人とまるで違う見地から捉えたからこそ生まれたものだったわけですし。ルディの件だって、常識にとらわれない発想の外に答えを求めた結果だったもんなあ。この青年の、盤上を限定しない思考の広がりは、やはりとんでもない。
そもそも、モンスターが落とす金貨、という点にそんな視点から着目するか? たまらんなあ、これ。

さて、ミナミの監視の目を交わすために極秘裏に北の地にとんだシロエと、離れずについてきた直継やん。ススキノで出会ったのは、まさかのギルド<シルバーソード>。ウィリアム、円卓会議の席蹴っ飛ばして出てって以来、まったく名前聞かなくなってなにしてるのかと思ったら、おいおい、ススキノに拠点変えてたのか。なるほど、それはアキバじゃ名前聞かなくなるわけだ。
ここで狷介そうだったウィリアムと、武闘派ギルドとして名高い<シルバーソード>の実体が明らかになってくるのだけれど、ここで描かれるウィリアムたちが、またこう……心擽る連中なんですよね。元々屈指のゲーム廃人の集まりだった彼らが、いかにしてこの異世界で生きているか。彼らの鬱屈とプライドが、ゲームではなくなったこの世界で彼らがどういう生き様で、どういう気持ちでなおも剣を取り、戦い続けているかがまざまざと描かれるわけです。そして、彼らが戦いの果てに、そして敗北の果てに剥き出しの心をさらけ出していくすべてが……。
そして、それは内へ内へとどうしても回帰していってしまうシロエに対しても、再び目を見開き、心を開く、外へと繋がっていく鍵へとなっていくわけです。なるほど、にゃん太師匠でもアカツキでもなく、直継が何故この旅路の同行者だったのか、何故彼が無理やりくっついてきたのかが、終わってみるとこれ以上ない人選だったんだなあ。というか、直継の良い男っぷりが身にしみる。
ウィリアムが、シロエの事を実はとても尊敬していて、憧れてすら居た、というのは彼の現実世界での姿や彼が抱えている鬱屈、そしてエルダーテイルで手に入れたものからすると、なるほどと思うんだけれど、同時にウィリアム自身は気づいていないかもしれないけれど、彼もまたシロエから見るとシロエが長らく出来なかったこと、逃げてきたことを、ちゃんと成し遂げ、またやり遂げようと諦めない尊敬に足る男だったんですよね。そもそも、同じく人付き合いが苦手な孤独な立場から、ギルドを立ち上げ、みんなをまとめ、引っ張ってきたというだけで大したもんなんだから。
だからこそ、最後の彼の涙ながらの真情の吐露が、あれほどシロエの心を揺さぶったんじゃないだろうか。
この世界での死が、冒険者たちに課す最大のリスクは、現実世界での記憶をなくしていくこと……とされていたけれど、今回それ以上に死が冒険者たちに強いるものが明らかになったわけだけれど……これは、すごく漠然としたイメージの産物なんだけれど、何故かとても実感できたんですよね。もし、確かにこれをより迫真性を持って、魂にダイレクトに突きつけられたら……何度もこの気持ちを増幅されて味わわされるとなったら、ちょっと耐えられないかもしれない。
ああ、なるほどなあ、最初の頃で初心者の子たちが、ハーメルンに囚われていた時、神殿送りにされることを恐れていたのは、単に暴力によって逆らう事への恐怖を刷り込まれていただけじゃなく、死んだ時にこの気持ちを味わわされる事が大きかったのかもしれない。いくら死んでも大丈夫でも、死にたくないと強く思ってしまっても仕方ないかもしれない。ただでさえ、痛みないとはいえ、自分の肉体が損壊するビジュアルを見たら心挫けかねないのに。アニメじゃ、身体が傷つくことに関して殆どちゃちなエフェクトで処理されてしまっているけれど、どうやら本当は見た目リアルに怪我してるみたいで、血もドバドバ出てるみたいだし。

そうなると、傷つくこと、死ぬことを恐れず前に出続けるデミクァスに対して、シルバーソードの面々が勝手さにイライラしながらも認めているのもなんとなくわかってくる。
うん、デミクァスは……まさかここで再登場、どころかこんな重要な役どころになるなんてなあ。読むのが遅かったので、ネタバレ食らってたんだけれど、何も知らずに読んでたらもっと仰天してたかもしれない。彼に嫁さんができていた、という情報も含めて。いや、肝っ玉姉さんみたいな人かと思ってたんだが、話を聞く限りだと全然違うみたいじゃないですか。元々大らかだったり、楽天的だったりしたわけじゃなく、本当は最初はものすごく怖くて泣きそうだったのを、歯を食いしばって負けまいとこの大男を睨みつけていたのが、なんとなく脳裏に浮かんでくる。弱くても、強い人だったんだなあ。この乱暴な男の価値観を変えてしまうほどに。今ではどれだけ尻に敷かれているのか、具体的に見てみたかった気がする。

さて、今度の大規模レイドに参加するメンバーで、メイン級となる新キャラは唯一一人、自称銀河系アイドルのてとらちゃん。いやあ、もうなんか明らかに痛そうな子、というようなキャラクターにも関わらず、何気にこの子が一番の功労者だったんですよね。絶望的な難易度で皆の心が挫けそうになる中で、彼女がムードメーカーとして盛り上げ続けてくれなかったらどうなっていたことか。決して天然お馬鹿な子じゃなくて、色々考えめぐらしている節もあるし、これは侮れん子ですよ。直継やんと思いの外距離近くなってるし、マリ姉さん、盤石なのは揺るぎないですけれど、それでも油断大敵ですよ。

とまあ、アキバの方ではアカツキをはじめとする女の子たちがガールズパーティーを繰り広げ、この北の地ではシロエがこの世界の根幹に挑んでいるさなか、他でも色々動きがあったようで……って、鬼畜眼鏡がこれえらいことに!?
次回は初心者パーティーズがメインになって動くようですし、ミナミとの本格的接触もあるか。って、このレベル、もう初心者どころじゃないなあ。凄く高くなってますやん。

シリーズ感想