ムシウタ    14.夢謳う虫たち(上) (角川スニーカー文庫)

【ムシウタ 14.夢謳う虫たち(上)】 岩井恭平/るろお 角川スニーカー文庫

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超種一号“C”の圧倒的な力に対抗すべく、2枚の切り札が動き出す。死から蘇った虫憑きたちの守護者“レイディー・バード”こと立花利菜。始源の虫憑き“α”の謎に迫る“炎の魔人”ことハルキヨ。だが二人の前に立ちふさがったのは、“ふゆほたる”によって欠落者とされたはずの“かっこう”だった!?最強の一号指定が結集し“始まりの三匹”を倒す―アリスの夢の続き、そして虫憑きたちの最後の希望は潰えてしまうのか?
不思議なことだけれど、ハルキヨって本人視点で描かれている時と他人から見た時とは全然違うんだよなあ。本人の素は、とてもシンプルで変に難しいことも考えていないしややこしい思惑も何も持っていないのだけれど、外から見ると異様に怪しくて何を考えているかわからなくて、とにかく信用しづらい胡散臭さがついて離れない。以前に一度、ハルキヨ視点を経由していたから彼に対する見方が変わるかと思ったんだけれど、いざまた別の人間の視点になると、ハルキヨの怪しさたるやぶっちぎりで、やっぱりこいつナニカ良からぬことを企んでるんじゃないか、と否応なく疑ってしまうんですよね。彼が、何故か他の人が知らないような虫憑きや一連の出来事の真相など、確信に近い情報を沢山握っているのも、その信用しづらさに拍車を掛けているのだろう。ハルキヨに言わせると、勝手に向こうから情報が集まってきているだけで、自分から何をするでも求めているわけでもない、そうなんだが、その言い分って必死こいて生命すらかけて真相を追いかけているようなやつからすると、ムキーーッ!てなもんでしょう。ハルキヨからすると、迷惑千万なんだろうけどさ。
結局のところ、ハルキヨの本質を過たずに見抜いていた人物というのは本当に少なくて、その希少な中でも特筆すべき人だったのが、彼女……眠り姫こと一之黒亜梨子だったんでしょうなあ。だからこそ、ハルキヨの側でも彼女にこだわり、真の自分を捉えている彼女にこそ、自分を殺して欲しいという気持ちがあったのでしょう。先のアリス救出戦では、もう見放したみたいな事言ってましたけれど、もう本当に興味なくしちゃったのかと心配しましたけれど、どうやらまだまだ未練タラタラなご様子で。こいつもシンプルなわりに、いやシンプルだからこそが曲がって面倒くさいやつだなあ。
対して、レイディーバード・立花利菜の方であるけれど、こっちはもうかわいそうなんてもんじゃないでしょう。周りからすると、あのレイディー・バードが復活というのは感動的ですらあるんだけれど、当人からすると死者に鞭打たれたようなものじゃないですか、これ。蘇ったとはいえ、その身はミミックのもので果たして自分が利菜なのかミミックなのかも曖昧で、生き返ってやることといえば死ぬ前と変わらない一号指定として戦え、というもの。虫憑きたちを守りたいという想いを失っているわけじゃないけれど、彼女はそれを無念として、未練として死んだわけじゃないんですよね。それを無理やり叩き起こされて、自己定義すら曖昧なままなお強いられるというのは……。さらには、莉奈という個人としてみても、起きてみればかっこうは欠落しちゃってるし、その「かっこう=大助」という衝撃は残ったままで、さらには彼女が心惹かれた大助という少年は、ふゆほたるに夢中なままで、トドメにアリスなんて最終兵器まで再出してきて、結局のところ自分なんてものは彼女たちと比べて番外であることは変わらないというのを、蘇って突きつけられて。わりとこれ、生き地獄である。莉奈からすると、溜まったもんじゃない。それでも、全部放り出してしまえず、全部背負ってしまうのがこの立花利菜という少女の死んでも変わらぬ背骨そのもので、なんかもう心身ともにボロボロになりながらも、何も見捨てず、かつてあの夜に見捨ててしまったものまでもう一度背負い直して、立花利菜をもう一度はじめようとする彼女は、やっぱり一等カッコ良い女でした。

しかしこうなると、一号指定全員、一度どん底に落ちてから、こうしてもう一度這い上がっていく形になるのか。
ふゆほたると槍使い。真実を知り絶望してしまった彼女と未だ目覚めぬ最後の要。やっぱり、このメンツを表からガバっとまとめられるのはアリスしかいないと思うので、彼女の本当の意味での復活は心待ちにしてしまうなあ。まさかもう一度、摩理が出てくるとは思わなかったけれど。
一方で、実は一番の要となりそうなチャミ陣営は、相変わらず片っ端から何もかも上手いこと行ってないんだけれど、そのくせ一番肝心なところはずっと掴んで離していないのは此処に至っても変わっていないようなので、ここの動きが最後の鍵になると思うんだけれどなあ。

さて、次はまた何年後かしら……せめて半年くらいでお願いします。

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