フェノメノ 参 収縮ファフロツキーズ (星海社FICTIONS)

【フェノメノ 参 収縮ファフロツキーズ】 一肇/安倍吉俊 星海社FICTIONS

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「人は、悪意の塊(かたまり)なの」
かつて皇鳴学園中に「読めば死ぬ」忌み語をまき散らし、学園から消失した彼岸と対峙する少女、篁亜矢名。彼女の存在に魅入られた五年前の日々を回想するオカルトサイト管理人・クリシュナさんが語る亜矢名に、美鶴木夜石の闇色の目は妖しく輝く。それが、夜石の失踪事件の始まりだった――!
一肇 ×安倍吉俊のタッグが描き出す、極上の青春怪談小説フェノメノ 参 収縮ファフロツキーズ、〈ファフロツキーズ〉編、ついに完結!

正直、篁亜矢名という一連の怪異の黒幕と思しき人物の登場には、恐ろしさよりもむしろ安堵を覚えてしまったのは変だろうか。確かに、この女性の好意と悪意をコインの裏表のように貼り付けた中身の見えない不気味さは怖いとは思ったけれど、篁亜矢名という「未知」より本当に何者か分からない正体不明の「未知」の方がやっぱり怖かったんですよ。前巻でナギをじっと見つめていた視線。あれは、誰のものかわからないからこそメチャクチャ怖かったんですよね。それが少なくとも、この篁亜矢名のものだとわかると、ちったあ心構えが出来るじゃないですか。本当に何なのかわからないものに見つめられているとなると、読んでいるこっちまでついつい後ろの気配をうかがってしまうような空恐ろしさにさらされていましたからね。
それでも、当事者からすると視線の正体がわかったところで恐怖は一切薄れるものではなかったようです。なにしろ、その人物は既に五年も前に行方不明になり、おそらくはもうこの世に居ないはずの人間だったのですから。クリシュナさんの回想から語られる彼女の姿は、クリシュナさんが向ける親愛の情と恐れ慄く恐怖感が入り混じった斑状に彩られ、その心情は想像で思い描くしか無い。それでも、じわりじわりと滲みだすように滴り落ちる悪意の純度だけは、近づくだけで汚染されそうな完全な闇であり、悍ましさだった。
それは、彼女が彼岸の住人となってしまっていたから、あちら側に魅入られてしまっていたから、というだけではないのだろう。ハッキリ行って、彼女にはそんなあやふやな境界線上を彷徨う儚さは微塵も感じられない。さながら、悪霊のようなものである。
はたして、そんな彼女と夜石を並べて比べるというのは、見る目がないんじゃないだろうか。クリシュナさんは、同じく彼岸の側の住人だから、と少なからず同一視、とまでは行かないまでも、危うさに関しては同質だと思っていたようだけれど、彼女には常人を闇へと誘いこむような意思は何処にも感じられない。それどころか、自分からナギを遠ざけようとしたことも度々だった。今回だって、彼女が一人で行ってしまったのは、彼女一人だけっで完結しようとしたのではなく、むしろ他者を慮っての事だった、とかんがえるほうが自然である。だからこそ、ナギは誘われたのではなく、追いかけたのだ。ついに、踏み入ってしまったのだ。決して、わたってはいけない境界線を跨ぎ超えてしまったのは、紛れも無く彼の意思であり、夜石を連れ戻すためだったのだから。

「人は、悪意の塊(かたまり)なの」

この言葉ほど、美鶴木夜石という少女から程遠いものはない。それだけで、美鶴木夜石と篁亜矢名は全然違う。ナギに向けて彼女が発した、あの真摯な言葉は、何よりも彼女の人間としての光を湛えていたと感じさせられた。あの場面で、あんなに心が暖かくなる言葉がこぼれだしてくるなんて、思ってもいなかっただけに、ナギがどれほどガツンとやられてしまったのか、痛いほど伝わってきてしまった。これまで、夜石という特異な触れるのも危うい少女とどう付き合うべきか、常に悩み迷い恐れビビっていたナギだけれど、これで全部吹っ切れたんじゃないだろうか。結局、彼女から離れられなかった自分を、後悔する事無く全肯定できたんじゃないだろうか。これからは、彼は胸を張って彼女と「友達」でいつづけることが叶ったような気がする。もっとも、これからも何度も恐ろしい目にあって、その度になんでこんな娘と一緒にいようとしてるんだ自分は、と頭を抱える事になるんだろうけれど、この勇気あるヘタレくんは。それでも、もうほんとうの意味で後悔する事はないだろう。その意味では、彼が跨いでしまった一線は、彼岸と此岸のそれだけではなかったはずである。
そして、夜石の方もナギと友達で居ようとする意思を持つということは、彼岸の彼方へとフラフラと消えてしまうような真似よりも、もっと大事なことがこちらがわで出来た、という事で……ちょっとだけ、安心した。

無事、一連の篁亜矢名に纏わる災厄は、これにて収束した……と思いきや、夜石の指摘が解決したと思われたこの事件の様相を一転させてしまった。そもそも、あの篁亜矢名の従姉妹だという少女に関しては、結局触れられないままでしたもんね。何も終わってないどころか、まだ始まったばかりだとすら思える実にスッキリしない良いモヤモヤエンドでありました。まったく、ホラーらしい結末ですわ。そして、次なる恐怖に続く、っと。

シリーズ感想