ゼロから始める魔法の書 (電撃文庫)

【ゼロから始める魔法の書】 虎走かける/しずまよしのり 電撃文庫

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教会歴526年―。世界には魔女がいて『魔術』が存在していた。そして、世界はまだ『魔法』を知らなかった。そんな時代、人々に“獣堕ち”と蔑まれる半人半獣の傭兵がいた。日々、人間になることを夢見る彼だったが、その数奇な運命を一人の魔女が一変させる。「―戻りたいのか?人間に。ならば傭兵、我輩の護衛になってくれ」ゼロと名乗る魔女は、使い方しだいでは世界を滅ぼしかねない魔法書“ゼロの書”を何者かに盗まれ、それを探す旅の途中だという。傭兵は、人間の姿にしてもらうことを条件に、大ッ嫌いな魔女の護衛を引き受けるのだが、禁断の魔法書をめぐって人々の思惑が絡み合い…。第20回電撃小説大賞・大賞受賞作!

美女と野獣系は、大好物です♪
ただねえ、肝心のその美女と野獣の関係にやや説得力が欠けるんですよね。いつの間に、そんなに相手に入れ込むような間柄になったの?というような。ぶっちゃけ、二人がお互いを大事に想い合うような経緯が殆ど見当たらないんですよ。別に、何かしらのイベントがないと好感度はあがらないもの、とか自然といつの間にか好意が生まれている、という流れを否定するものじゃありませんけれど、それにしても信頼も好意も深まるような何かや時間があったようには見えなかったもので。それでも、虎雄くんがゼロを気にし出すのは、彼の性格もあってかまだわからなくもないのですけれど、ゼロの虎雄への無防備なまでのあけすけな態度は、前提としてそれがあったように見えて、二人がベタベタしていてもあんまりイチャイチャ甘々な感じとして捉えられず、ややもやもやした感が残ってしまいました。
それでも、獣人もふもふの大男に、絶世の美女が無防備に懐いている、という構図はズルいなあと思いながらもやっぱり惹かれてしまうものなのですが。
全体としてみると、個々の人間を見るならばそれぞれ善意を持った良い人達なのに、人が集まり集団となると止めようのない悪意が事態を牽引し、より救いのない凄惨な方向へと誘ってしまう、という世情がわりと容赦なく、というか突き放したように描かれていて、特に世間知らずなぶん無垢で悪意を持たないゼロがヒロインとして中軸に居る分、その対比が浮き彫りになっているような気がする。ゼロは無垢であると同時に知性深く聡明な賢者でもあるので、どうして悪意が生まれ、それが世の中を動かしているのかを十分理解もしている。理解しているからこそ、自分が生み出した魔法の概念の危険性を承知して俗世に現れたのであり、また理解しているからこそ、悪意によって生まれる惨劇を悲しむのだ。
うん、なるほど、ちょっと解ってきた。何故、ゼロが虎雄に懐いたのか。悪意の向かう先である魔女である自分を恐れない初めての存在、という刷り込みのようなものもあったんだろうけれど、それだけでなくゼロにとって虎雄は人間の持つ、悪意に負けない良き心の象徴であり、俗世と自分を繋いでくれる橋渡しみたいな存在だったんじゃなかろうか。
まあ、そこからどう虎雄個人に傾倒していったかは、傍から見ると最初から最後までフラットでどういう浮き沈みがあったのか窺い知れないのだけれど。

結論としてみると、過保護な兄を妹離れさせるお話であったという不思議。ラスボスかと思われた人物が味方になった時のこの頼もしさたるや、敵が味方になると弱体化する傾向が常である中で珍しいくらいだったなあ。
まあ、誰が悪いからこれを倒せばオシマイという話ではなく、何が悪くてそれとどう向き合っていくか、という話なので、誰がラスボス、誰が黒幕、というのはそれほど問題ではなかったのだけれど。
まあ、妹さんをください、という展開的には対決すべきラスボスは必要だわなあ。