トッカン―特別国税徴収官― (ハヤカワ文庫JA)

【トッカン 特別国税徴収官】 高殿円 ハヤカワ文庫JA

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面白くってためになるお仕事小説決定版、待望の文庫化!カフェの二重帳簿疑惑や銀座クラブの罠に特別国税徴収官付きの新米徴収官が体当たり!
税金滞納者から問答無用で取り立てを行なう、みんなの嫌われ者――徴収官。そのなかでも、特に悪質な事案を担当するのが特別国税徴収官(略してトッカン)だ。東京国税局京橋地区税務署に所属する、言いたいことを言えず、すぐに「ぐ」と詰まってしまう鈴宮深樹(通称ぐー子)は、冷血無比なトッカン・鏡雅愛の補佐として、今日も滞納者の取り立てに奔走中。 納税を拒む資産家マダムの外車やシャネルのセーター、果ては高級ペットまでS(差し押さえ)したり、貧しい工場に取り立てに行ってすげなく追い返されたり、カフェの二重帳簿を暴くために潜入捜査をしたり、銀座の高級クラブのママと闘ったり。 税金を払いたくても払えない者、払えるのに払わない者……鬼上司・鏡の下、ぐー子は、人間の生活と欲望に直結した、“税金”について学んでいく。
仕事人たちに明日への希望の火を灯す、今一番熱い税務署エンターテインメント第1弾!
ぐわぁ、主人公のぐー子、ずたぼろじゃないか。ここまでギッタンギッタンに切り捨てられる主人公は滅多と居ないですよ。
人間、一番心にダメージ食らうのって、自分の弱さや未熟さを突きつけられた時、じゃなくて自分が不満に思ってた事が全部自業自得だった、とか自分がどれだけ薄っぺらくて中身を伴わない人間だったかを突きつけられた時なのかもしれない。自分がどれだけ恥知らずだったかを思い知らされた時かもしれない。言い訳、きかないもんなあ。自分がむちゃくちゃ嫌な奴だった、と理解してしまった時に生まれる自己嫌悪、立ち直れないですよ。
人間、自分の短所や欠点、嫌な部分をわかっているつもりで、結構本当に分かってない事が多いんですよね。他人から見ると、どうしてコイツわかんないんだろう、と思うようなところでも案外気がついていなかったりする。
人間、言われなきゃわからないんですよ、これ。ところが、そういう根本的な人格に根ざす問題を面と向かって指摘するような事はまずありません。そりゃそうです、そんなの人間関係破綻しますよ、人格否定ですもん。そんなもの、よっぽどの時しか起こらないし、そういうケースではどちらも冷静さに欠けて何を言われようが胸襟を開いて受け入れるなんて出来るもんじゃない。そうじゃなくても、自覚のない欠点はどれだけ指摘されようと、なかなか受け入れられないものです。
そう、人間、言われなきゃわからないようなことは、言われたって分かんないんですよ。たとえ、わかってしまったとしても、なかなか受け入れられるもんじゃない。これまでの生き方、在り方を根本から否定して、変える事の出来る人は、やっぱり滅多と居ないと思うんですよね。
だから、ズタボロになりながら、でも言い訳せずに目を塞がずに、容赦なく自分を切り刻む全否定の言葉を、ああそうだったのか、とガッツンガッツン避けずに全部喰らったぐー子は、偉いんですよ。どれほど傍からすると嫌な子だったとしても、偉い子なんですよ。鏡さんの見立ては、これまた見事に本質を貫いてたんだなあ。
そんでもって、言いたいことを言えなくてグッと詰まってしまうくせのある彼女ですけれど、言わなきゃいけない言葉は決して手放してないんですよね。工場の夫婦に対しても、クラブのママに対しても、そして鏡さんに対しても、自分の誤った対応を無かったことにせず、一線の向こう側に行ってしまいそうだったのを、なりふり構わずしがみついて、言わなければならなかった事を詰まらず全部吐き出すことが出来ているのです、この娘は。恥ずかしかったでしょう、情けなかったでしょう、それでも必死にリカバリーしようとして、それを果たしている。そうして、自分の仕事にキチンと向き直ろうとしている。
それは、尊敬に値する姿でした。どれほどみっともなくて不細工であったとしても。

企業やでっかい脱税を追求するマルサなどの花型と違って、一般市民や自営業を相手にする事の多い税金を徴収する側の人間、というなかなか見ることの出来ない景色の中で務めている人たちの人間ドラマは、生活の間近に根ざした物語でもあり、ぐー子の血を吐くような心の叫びがガンガンと突き刺さり、税金というものを介して彼女と関わることになる人達の人生を目の当たりにする、迫真と切実を以って胸を突く話でありました。