飛べない蝶と空の鯱 6 ~蒼の彼方より、最果てへ~3 (ガガガ文庫)

【飛べない蝶と空の鯱 6. 〜蒼の彼方より、最果てへ〜3】 手島史詞/鵜飼沙樹 ガガガ文庫

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渡り鳥は空を飛ぶ。夢のため、封書のために

突如として変貌したハイリッヒは何者なのか。<霧>に耐性のない人々と、浮島の人々を繋ぐ七つの鍵・エインヘリヤルとは?
真実がそのヴェールを脱ぐとき、ある者は決断し、戦い、そして――。ヒルダとシュネー、因縁のライバルの壮絶なる戦いが決着し、後に残された世界は滅びるのか、そして生き残るのは?
封書は踏みにじられ、大陸は沈む。しかし、それでも<渡り鳥>、ウィルとジェシカは飛ぶ。夢のため、封書のために。

ポールマン、おまえそんなキャラじゃないだろうっ。ヘタレなのに、ヘタレのくせに、頑張りやがって、無茶しやがって、男になってしまいやがって……。
空の門編、ここに完結。それすなわち、ヒルダの旅の終わりでも在る。彼女の人生の因縁、その結末がここに在る。封書を届け、人の想いを伝え繋いでいく渡り鳥の物語は、同時に人の想いが、祈りが受け継がれていくのを見守る物語でもある。たとえ人生がそこで潰えようとも、精一杯生きて育んだ証は、次の人へと受け継がれていく。兄たるハイリッヒが、妹たるイスカに託したように。ポールマンが必死に繋いだように。
でも、その次に繋ぐ行為がどれほど尊くても、それはどうしようもなく哀しい事でもあるんですよね。できうるならば、次に託すのではなく、共に手を携えて歩めれば、空を飛べれば、それに勝る事はないだろうに。だからこそ、ヒルダがあの場面で、自分の人生を燃やし尽くしたあの場面で、悔いなく満足してすべてを受け取って貰おうとするのではなく、心からの本音を、願望を、未練を叫んでくれたことは、嬉しいというのは少し違うけれど、胸を打ったのでした、良かったと思えたのでした。悠久の中に取り残されようとしていた彼女が、ただの一人の少女に戻ってきてくれたようで、初めてヒルダが遠くから見守る達観した存在ではなく、同じ空の下で生きる人の子に帰ってきてくれたようで。
その奇跡を祝いたい。

世界の秘密の多くが暴かれ、霧妖と呼ばれる空の覇者たちの正体が明らかになったわけだけれど、なるほどジェシカがどうして霧妖と人間の間の子のような不可解な存在になってしまったかの理由もこれでようやく理解できた。そして、この作品におけるウィルとジェシカの、霧妖との向き合い方も。霧妖との空戦は、もはや戦いなどではなく、純然たるコミュニケーションへと発展したのか。
そして、霧妖とここまで心通わせることの出来るようになるまで、達してしまったウィルとジェシカ、この二人の関係もいつまでもコミュニケーション不全のままでいられるわけがなく、居られるまま落ち着けるわけがなく、もう常から自然にどれだけイチャコラだよっ、というくらいべったり以心伝心でラブラブ状態だった二人だけれど、ついにちゃんと言葉を介して想いを伝え合うことに。ついにというか、ようやくというか、やっとかよ!といいますか。でも、万感であります。万感であります。ジェシカの、いっぱいいっぱい頑張っての返答は、もうなんか頑張ったなあ、と褒めてあげたくなるような初々しさで。このまま、お幸せに、で終わってもいいくらい。
勿論、まだまだ続いてくれないと話が終わらないのですけれど。あれ? 今まででも十分、糖分過多で周りの人たちが辟易するほど甘酸っぱい雰囲気を爆散させていたこの二人が正式に恋人状態になってしまったら、もうあかんのとちゃうか? ヤバいんとちゃうか? ヒルダさん、本気でこの二人と飛びたいですか?w

手島史詞作品感想