ウィザーズ・ブレイン (8) 落日の都 (下) (電撃文庫)

【ウィザーズ・ブレイン 8.落日の都 (下)】 三枝零一/純珪一 電撃文庫

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シティ・シンガポールと賢人会議の同盟締結に反対する者たちにより、入院先の病院から拉致された参謀の天樹真昼。一方、数万人に膨れあがった反対派のデモは、魔法士たちが滞在する迎賓館を包囲しつつあった。事態収拾のため、サクラとフェイ大使は反対派の要、リン・リー議院の私邸へと向かうが…。賢人会議と人類の同盟を“望む者”と“望まない者”。それぞれの信念と思惑の行き着く先は、果たして“平和”か“戦争”か―。すべての混乱が頂点に達したとき、シティと賢人会議の歴史的同盟の行方が決まる!「落日の都」完結編。
二年待った結果がこれかっ!! これなのかっ!! うわぁぁぁぁ!!
みんなが、誰もが、そこに在る人全員が最善を尽くし、全力を尽くし、頑張りさえスレば、すべてが上手くいく。最善の結果が手繰り寄せられる、不可能だって可能に出来る!! なんてことは幻想にすぎないのだという厳然たる事実をまざまざと見せつけられる。
皆が、自分の出来る範囲で最善を尽くした結果、最悪の結末へと、世界の滅亡へと転がり落ちていく悪夢のような現実がここに在る。一人ひとりが世界を救おうと願った結果、次々と世界を救う可能性が潰れていくという筆舌しがたい現実がここに在る。
善意こそが、もっともたちが悪いものだとはよく言ったものだ。無能な働き者こそが、すべてを混乱に導いていくとはよく言ったものだ。
とはいえ、歯車を逆へと動かしていったものたちが無能だったわけじゃない。彼らは、無知だっただけだ。そして、無知だったのは神戸の元軍人たちだけじゃなく、シンガポールの政治家たちだけじゃなく、シティの民衆たちだけじゃなく、賢人会議の魔法士たちだけではなく、天樹真昼もまた無知だったのだろう。真昼が知っていたのは真理だけであり、真理を知らない真昼の目からすると不合理で理解できない理由で動くモノたちの、彼らが把握しうる範囲で成就した真理について、ついに無知であり続けたからこそ、ことはすべて真逆へと動いていってしまったのだ。
敢えて言おう、無知は罪だ! でも、彼らがその時点で持ち得た以上の知を、真実を、どうやって彼らは手に入れるべきだったのだ? 
いや、結局は腹を割ってすべての真実を共有することが出来なかった事が、ここに結実してしまったのか。人類の賢明さを信じられずに、各々が自分の腹に真実を秘密として溜め込んだまま、それぞれに最善を尽くそうとした結果がこれなのか。
話し合うべきだった。とことん、話し合うべきだったのに。ああ、ならば一番正しかったのは、あの身も心もすべてを曝け出して話し合いの場に打って出た魔法士の小さな子どもだったのだろう。その彼が、問答無用で銃弾を打ち込まれた時、きっとすべてが終わってしまったのだ。後戻りできない破滅の引き金こそが、あれだったのだ。
ハッピーエンドなんて、もうどこにもない。彼女の慟哭が、絶望が、拭えない汚泥となって幸せの結末を塗りつぶした。人類なぞ、滅びてしまえ。そんな風に投げやりに思ってしまうほど、もう何もかもが取り返しのつかない所に至ってしまった。
一つだけ、忸怩たるものがあるとすれば、シンガポールの議員たちだ。彼らだけは、とてもじゃないが最善を尽くしているとは思えない。生命をかけるだけの信念があるなら、どうしてもっとなりふり構わず可能性を手繰り寄せようとしないのだろう。彼らだけは、ほとんどの真実を把握することが出来たのに、手遅れだったとはいえその時点からできることがあっただろうに……彼らは真実を握りつぶし、何も知らない民衆の意思を優先した。世界を救うよりも、市民の意思を優先したのである。シティを守ることを優先して、世界とともに滅ぶことを選んだのである。迎合ではない、シティの市民の意思を代弁する議員としての信念として、だ。まさに、公僕である。立派じゃないか、シティの議員としてこれほど清廉で立派な事があるだろうか。くそのような立派さだ、畜生。
でも、誰もが枠組みから外れたただの人類のひとりとして、世界のために動くことなんて出来ないのだ。彼らシティの議員だけじゃない。軍人たちも、魔法士たちも、自分たちのその枠組から逃れられないまま、その枠を守るために全身全霊を尽くしているにすぎない。その結果、世界が滅びようとも、だ。誰もが、世界の一員、人類の一員である前に、組織の、国家の、社会の、集団の、家族の一員なのである。まず、自分の所属する枠組みを守ることからしか、出来ないのだ。人とは、そういうものなのだ。
だから、滅びる。
きっと滅びる。
サクラを泣かせた世界なんぞ、いっそ、滅びてしまえ。こんちくしょう。

……物語は、現状、全滅エンドへと直滑降だ。

サクラは、投げやりになっていいんだよ。自暴自棄になって、八つ当たりして、怒りのままに振る舞っていいんだよ。でも、この娘は優しくて、真昼の事を本当に好きだったから、きっとそんなことは出来ないんだろうなあ。自らすすんで、泥を被っていくんだろうなあ。いい意味でも、悪い意味でも、真昼を継いでいってしまうんだろうなあ。それが、辛くてたまらない。こんな辛い思いをするなら、いっそ世界なんて滅ぼしてほしい。宣言通りにやってしまえばいいのに。ああでも、それは自分のこの憤懣やるかたなさをサクラに押し付けているだけか。代行して欲しいだけか。
どうあっても、どうなっても、もう苦しいよ。

シリーズ感想