神滅騎竜の英雄叙事詩(サーガディア) (このライトノベルがすごい!文庫)

【神滅騎竜の英雄叙事詩(サーガディア)】 湖山真/夕仁 このライトノベルがすごい!文庫

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大陸の約三分の一を版図とするアルタニア神聖国。この地には二百年ほど前から、毎週「災曜日」に巨大な異形の怪物「災神」が現れる。災神は都市を襲い、建物を破壊し、人々を殺戮するが、日付が変わった瞬間に靄のように消え失せてしまう。災神に立ち向かうことは人間にとってほぼ不可能で、せいぜい24時間誘導し続け、被害を減らすことが精一杯だった。だが唯一、竜と契約して「竜騎士」となった者だけが、災神を斃せる力を行使できた―。新感覚バトルファンタジー!
いやいやいや、幾ら何でも一つの都市で毎週十人近く殉職者が出るって、被害多すぎだ。単純計算で、一ヶ月に五十人。一年で六百人近くも死んでることになる。他の城塞都市では週4,5人ペースだそうだけれど、それでも三百人。国全体じゃなくて、都市個別でとなると、毎年想像を絶する数の騎士が殉職していることになる。普通、これもう組織維持できずに崩壊してますよ、一年で。仮にも騎士は竜を駆る特殊職であり、その任務内容も凄まじく熟練を要求されるのを鑑みると、訓練をまともにうけてないような即席培養だったらとても生き残れない環境だろうし。殉職者がそれだけたくさん出るということは、経験も蓄積されないということでもあり。
ちょっと状況設定が厳しいを通り越して末期戦の一番後ろらへんなんですが。これを二百年も続けていられているというのは、ちょっと信じがたい。順調なペースで城塞都市もしょっちゅう陥落してるみたいですしね。それに週一で都市部の外を出歩くことができなくなるとなると、国内の流通も壊滅的に発展しにくいでしょうし、農業生産もまともに出来なさそうだし、そうなると国力そのものも増える要因がどこにもなく……。
それだけ過酷な状況に主人公たちは置かれている、と印象づけるためなんでしょうけれど、この人の筆致ってリズム感がよくってキャラクターも軽妙なところがあるので、果たして世界観と合っているのかというと微妙な所なんですけれど。シリアスな展開はバッチコイなんですけれど、そこにすっとぼけたようなノリが介在する事で上手いことブレンドされた作風になっていたのが、前作の【カレイドメイズ】シリーズだったんですけどね。
とはいえ、一つ間違えれば容易に死に至る過酷な環境、というのはコウキとフレッカの関係に緊張感を絶やさないという意味ではちゃんと意味がありましたし、マデリーンのような人の絶望感を描き出すには有用だったのですから、ちょっと盛りすぎたのと、アネットの色呆け具合がどうも場違いだったのを除けば、むしろ舞台設定としては魅力的だったのか? 「災神」と呼ばれる怪物たちのおぞましい造形なんかは、そそられるものがありましたしね。人類の敵、という存在はやっぱり見た目のインパクトがないと話になりませんからね。その意味では「災神」の造形はピカイチ。
さらに、人間が「災神」と対向するために共に戦う「竜」という存在を、単なる乗り物や武器として扱わず、かと言って擬人化した存在にしてしまうのではなく、人にとっての愛馬や愛犬のような言葉は通じないけれど意思を通じ合わせた相棒、として話の要にも深く関わることになる存在として取り扱ってるのは、個人的には凄く好みでした。人同士の関係と同じくらい、竜との関係も物語の根幹に関わってくるんですね、これ。
物足りなさがあるとするなら、押し寄せてくる破滅的な状況を捌く方に重点が置かれてしまって、コーキとフリッカの関係の掘り下げがやや後回しになってしまったところでしょうか。過酷な環境だからこそ、深くのめり込むようにお互いの内面に干渉し、縺れ合う展開というのはどうしても期待してしまうところだったのですが、とにかく生き残ることに精一杯になってしまって、肝心の二人の関係がもう一歩踏み込みが足りないところでとどまっちゃった感があるんですよね。フリッカが抱えていた秘密やコンプレックスは、コーキの存在が支えとなっていた心根や竜騎士になる過程、またコーキ自身の意思の源泉も含めて、どうもちゃんと準備方は仕込んであったような感じなんですけれど、「災神」が現れる世界の秘密と合わせても、そちらにとっかかれないまま終わってしまった感がそこかしこに残っているので、どうしても食い足りなさは拭い去れないんですよね。
もし続きがあるならば、腰を据えてじっくりやって欲しいなあ、と思います。この人の作品、好きなんですよね。本作もちゃんと面白そうという手応えがあったからこその期待値です。

湖山真作品感想