神武不殺の剣戟士 アクノススメ (ファミ通文庫)

【神武不殺の剣戟士 アクノススメ】 高瀬ききゆ/有坂あこ ファミ通文庫

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目指す“最強"の剣!! それは人を斬って拓く道か――!?

帝都剣術学校。
悪を自称する清水龍人が入ったその学校は、新式蒸気機関による近代化に沸く帝都オオエドを刀剣犯罪から護る華。
そして、「決闘」を教育の一環と見なす物騒な所だった!
決闘否定派だった龍人も、天才剣士星村千歳に辻斬り犯と間違われて闘う事に。
人を斬らねば強さは得られない、と語り、殺す気で来る千歳。迎え撃つ龍人。だが、彼は不殺主義者で――。
第15回えんため大賞特別賞。蒸気に彩られし帝都で学徒剣士が刃交える剣戟浪漫アクション!!
この本、最初はタイトルにもある「不殺」が、また主人公がスカしてるか、変にウジウジしてネガティブな鬱陶しいタイプなんだろう、と思ってスルーしてたんですよね。殺さないというのは、場合によっては増長傲慢の上から目線にもなってしまいますし、やたらと制約が多いストレスのたまる展開になってしまいがちですからね。不殺、或いは活人というものに対して、エンタメ的見地から明快でスッキリした解答を持ってる作品ってやっぱり少ないですから。特に新人作品となるとなおさらに、という考えが頭にあったので、どうしても回避の方に走ってしまったのですが、評判の方を見ているとどうも不殺というものに対するスタンスや、主人公のキャラクターが忌避していたものと全然違っている様子だったので、思い切って購入してみることに。読書メーターってネタバレ怖いですけれど、こういう大まかな感触にダイレクトに触れられるので、結構重宝します。
で、読んでみたらなるほど、たしかにこれがまた面白かった!
主人公は確かに不殺を旨として戦いに挑んでいるし、殺すことで強くなるという思想に対しても否定的なんだけれど、切り捨て上等のこの世界観において、他人にまで殺すなかれを強いているわけでも、声高に主張しているわけでもなく、あくまで個人の主義でわりと他人は他人、という態度なので鬱陶しさは一切感じませんでした。彼の場合、不殺がどうのというよりも、悪を標榜することに夢中なんですよね。その悪としても振る舞いも、面白いのが偽悪を気取っているんじゃなくて、わりと本気に悪を成そうとして何故か善行に走ってしまっているアホさ加減が滑稽で面白い。ああ、アホの子なんだなあ、と思わずニヨニヨしてしまう主人公なのだ。
とはいえ、こんなアホの子ではあるものの、剣術の腕前については本物。この切り捨て御免の学校の中で不殺を貫けるほどの剣腕を有している。敢えて、剛剣・示現流の使い手としたところがまた面白い。数ある剣術流派の中でも、示現流ほど一撃必殺を体現している流派もないだろうに。
うん、この作品の極めて面白いところは、剣戟において、実在の流派を、きちんとその特性を表現しつつ扱っているところでした。普通は看板だけ借りて、何が新陰流なのか、一刀流なのか違いが傍から見ているとさっぱりわからないようなものなんですけれど、本作では凄くマニアックに各流派の特徴や理論を突き詰めて剣戟へと転換しているのですよ。
 理に合わせる事が合理なら、合わせるべき理の事は理合という。
 剣術は理合の集まりであると同時に、一つの大きな理合であるとも言える。
 剣戟とは、武具と五体を用いた論理戦なのだ。

作中にあるこの一文が、本作における剣戟のスタンスを表しているように思う。
示現流、北辰一刀流。二天一流に天然理心流。直心影流に大森流。剣術好きには、色々と美味しいネタがいっぱいで、うん、ご馳走様でした。
あの「心斬り」なんかは説得力ありましたよ。あそこから、星村千歳という少女の死生観をひっくり返して彼女のヒロインとしての魅力を切り広げていく生と死の観念の描き方なんかも面白かったですし。かなりテンポよくコメディタッチに描かれながら、意外とこういう死生観については土台がしっかりしているので、軽妙ではあっても軽薄ではなく、読み応えありましたよ。
あと、シンプルに蘭服かっけえっす♪ 実に楽しめる快作でした。今後も期待。