カーマリー地方教会特務課の事件簿 (1) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

【カーマリー地方教会特務課の事件簿 1】 橘早月/中嶋敦子 ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ 

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「隊長、これ『左遷』って言いませんか?」

レストラニクス聖教国神教会聖騎士団の若き騎士であるジークフリートは、ある日、騎士団の上司・サーバルト卿から食事の誘いを受ける。
「イイ話」に違いないと思い込んでいたジークフリートは、なんと「カーマリー地方教会特務課」への人事異動を受けてしまう。カーマリーといえばやたらと悪魔や不死の魔物の発生率が高い土地で、その特務課といえばそういった魔物退治などでレストラニクス東方教区一番の殉職率を誇る職場だった!
しかもサーバルト卿がカーマリー特務課主任に賭けチェスで負けた代償に、若い人員を差し出すという、なんともお粗末な約束が成立し、見事にジークフリートに白羽の矢が立ってしまったのだった・・・。
ああ、哀れや、ジークフリート・・・。
あまりにもひどい仕打ちに自暴自棄になりつつも、「左遷」を受け入れカーマリーにやってきたジークフリートは、そこで見慣れない黒い片眼鏡を掛け、背が高く神父でありながら僧服の襟元は大きくはだけている金髪で長髪の男〜特務課主任・オブザーに出会う。
えらく耽美な絵だなあ、と思ったらこれ中嶋敦子さんなの? 挿絵の方も結構イメージ変わってる気がしたなあ。
とまあ、なんとなく女性向けみたいに見えますし、実際今のところは男性キャラが主で女性キャラはシスター・リリィくらいなんですけれど、大丈夫、全然そっち系じゃありませんから。
主人公のジークなんざ、関西弁ですしね! うはは、懐かしいなあ、そうそうジークってこういう貧乏くじ引くタイプの親しみやすいアンちゃんだった。
本作は元々、ウェブ小説として個人HPで連載されていた作品で、私も愛読していました。結構前でねえ、もう十年以上前ですよ。作者の橘さんは、一度電撃文庫からデビューしたのですが、結局そのデビュー作だけしか出されずに、個人HPの方もデビューした際に全削除してしまわれたので、随分哀しい思いをしたものです。それだけに、もう一度お目にかかれるとは、しかもあのカーマリーを。
なにしろ十年以上前に読んでいた作品だけに、記憶の中で美化されていて今となっては実はさほどではなかった、なんて事にならないかどうか、微妙に不安だったのですが全くの、ええ全くの杞憂でしたよ。
上司に賭けチェスの担保で毎年殉職率1位の超ブラックな職場に放り込まれる事になったジークフリート。この
のっけからのサーバルト卿とジークのやりとりが面白くてねえ。いやあ懐かしいやら笑えるやら、緩急自在の文章のリズムは今での全然色褪せることなく、ビリビリと冴え渡っていました。
教会聖騎士団が舞台、ということで登場人物はみんな聖職者、というのは宗教絡みということで物語を書く上でもなかなかハードル高いところを選んだなあ、と当時も思っていたのですが、少なくとも表面上のキャラクターは、カーマリーが愚連隊みたいな集まりなせいか決して堅苦しいことはありません。かと言って、聖職者である事に何の意味もないわけではなく、人が一人ひとり胸のうちに抱えている信仰……心の在リようの問題にずいずいと踏み込んでいっていたような記憶が……うろ覚えなんですけどね。もっとも、第一巻についてはカーマリーという土地の雰囲気を紹介するような感じで、ジークがひーこら大変な毎日を送るのを追いかけるような形で、不良神父のオブザーやそれを取り巻く個性的なメンバーの様子をコミカルに描くコメディタッチに話は進んでいきます。
殉職率云々というから、相当殺伐として息を抜く暇もない厳しい環境を想像していたら拍子抜けするかもしれませんが……。まあ、そうやって油断させておいて、というのがまた手ではあるんですけれど。
確か、ウェブ小説として連載していた時はもっと日常編は長いこと続いていたような気がするんですよね。狼の少女が訪ねてくるような柔らかい話が、もっと沢山あったような。それこそ、メインキャラみんなに馴染みきって親しみ、彼らがドタバタ駆け回っているのが当たり前みたいに刷り込まれるくらいに。
だからこそ、あのシーン。この巻でも最後の章に見舞われることになる事件は、横っ面をぶん殴られるような衝撃でしたから。ほんと、まさか嘘だろ!? と絶句したものです。彼が欠けるなんて、まったく想像できませんでしたから。彼が居ないカーマリー特務課なんて、そもそも成り立つのか?と真剣に疑ってしまうほどに。
今読み直しても、あのシーンでのアッシュの叫びの生々しさはゾクッとします。
まあでも、確かにこの事件を1巻のラストに持ってくるのは、このシリーズがどんな物語なのかを指し示す上では決して欠かせないピースだったのでしょう。否応なく、緩みかけたものが締まりますからね。

何にせよ、記憶に違わぬ手応え十分の面白さでした。このまま書籍で続きが読めるというのは、いまさらながら感動だなあ。待たされることなく、5月にはさっそく2巻が出るようなので、今から楽しみです。