ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン (5) (電撃文庫)

【ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン 5】 宇野朴人/さんば挿 電撃文庫

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未知なる戦場「海上」で手痛い敗北を喫したイクタたち、カトヴァーナ海賊軍。驚異的な破壊力を誇る「爆砲」を装備するキオカ海軍に対して、もす戦略的撤退しかないと軍議がまとまりそうになったとき、海戦に関しては門外漢のはずの、ある少年が、爆砲艦への有効な対抗策を提言するのだった―。「肉を切らせて骨を断つ」がごとき、血で血を洗う激烈な海戦が幕を開ける!話題の本格派ファンタジー戦記、待望の5巻が登場。命ギリギリの容赦ない戦いは、激しさを増すばかり…!
この男、やっぱスゴイわ。どんだけ引き出し持ってるんだよ。まさか、こんなとんでもないカードを隠し持っているとは。
正直、この作品、国のどん詰りがキツすぎてハッピーエンドが皆目見えてこない状況だったんですよね。挙句に、姫様が自爆特攻一直線モードに引きこもったまま出てこようとしていないし。
順調に功績を積み重ねて出世しているイクタたちだったけれど、如何せん任官して間もない新人という立場は無視できず、彼らが国を動かすまでに至るまではどう見積もっても十年二十年の月日が必要だったわけです。姫様を神輿にあげて横紙破りするにしても、基盤らしい基盤もないまま挑まないといけないわけで、かなりのアクロバットを見込まないと、とにかく綱渡りも良いところの危ない橋しか見当たらなかったんですよね。それに、肝心の姫様がアレですし。
そもそも、イクタが姫様についてどう考えているか、どう捉えているか、どうするつもりなのかがなかなか見えてこないものですから、ずっと不安だったのですよ。
でも、ヤトリとの会話の中から、ようやく彼の本音が聞けました。少なくとも、彼は姫様の自滅志向を良しとしていないし、彼女の心の暗闇を払ってあげたいと思っている。それさえ確かめられれば十分です。彼に、ヤトリや仲間たちを裏切る気がなく、姫様をちゃんと立ち直らせようという意思があるのなら、もう何も怖いものなんてありません。こいつがやる気なら、もうなんだって出来るに決まってるんだから。
そして何より、イクタにヤトリの道を遮るつもりがないのなら、ヤトリが思う通りの道を歩けるように何でもする気があるのなら、彼はどんなに困難な道でも切り開いてみせるでしょう。ヤトリのためならば、この男に出来ない事はないのですから。
不安要素があるとするなら、自滅志向よりもむしろ妬心を拗らせつつある姫様か。
ともあれ、国を滅ぼすどころか、この腐りつつある国そのものを一発逆転で蘇らせることの出来る可能性を引き寄せるだけの、とんでもないカードをイクタは隠し持っていて、内戦の危機が迫ったこの時を持ってついにその
カードを切ったのです。正直言って、度肝を抜かれました。とんでもない、ほんまとんでもないわ、この男。

とまあ、ヤトリとイクタの絆の深さやイクタの底知れなさを思い知らされた後半に色々と持って行かれた気もしますが、前半戦の帆船同士の大海戦も負けず劣らず手に汗握る熾烈すぎる攻防でした。ってか、イクタのあの作戦案はマジスゴイわ。帆船同士の海戦、しかも長距離で撃ちあう砲戦が主流となる時代への過渡期特有の虚を突く、実に論理的で才気煥発の極みとも言うべきこの着眼点。この仰角の問題は、砲戦が主流となってくると常識となる基本問題であり、風上では仰角をあげられずに砲戦距離を稼げず、風下では仰角があがってしまい舷側も晒して喫水線下にも被害を受けやすくなる、などいった問題は最初から踏まえた上で戦術が仕立てられるようになるのだけれど、イクタがスゴイのは敵将も絶句しているように、一度交戦しただけでこれらのまだ大砲を使用している側も認識していない問題点を汲み取った上で、戦術に組み込んじゃってる所なんですよね。速い、速すぎるよ。
敵将の姐さんが、お世辞抜きに有能な提督だっただけに、その彼女をねじ伏せるに至ったイクタの作戦と、海賊軍の力量には敬服するしかありませんでした。これぞ、見応えのある合戦だわ。
でも、今回の物語としてのMVPはやっぱりマシューでしょう。この子の地に足の着いた実直な能力と精神性は、ほんと頼もしい。派手さはないけれど、相手からは嫌がられる将軍になりますよ、彼は。小隊から万を超す大軍団まで、変わらず実直に率いてくれそうだ。ヤトリとトルウェイの飛車角っぷりが目立つけれど、マシューは歩と金将をまとめて担ってくれそうな役柄だよなあ。ちなみに、副官のスーヤも今は下士官だけれど、今の調子でイクタの側で勉強してたら、将官くらいなりそうな感じだよなあ、これ。
ともあれ、マシューとポルミンはこれ、お似合いだと思うぞ。

とまあ、順調に周囲に人材が揃い育ってきたように見えてたんだけれど……ハロがまさかなあ。これはさすがにイクタも把握してないだろ。

毎度ながら、此処ぞという時の展開が予想を裏切って面白すぎますよ。ハッピーエンドの目算も出てきたし、テンションあがってきましたぞ。

シリーズ感想