不戦無敵の影殺師 (ガガガ文庫)

【不戦無敵の影殺師(ヴァージン・ナイフ)】 森田季節/にぃと ガガガ文庫

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ヒーローになれなくても、俺たちは無敵だ!

――この俺、冬川朱雀と相棒の少女、小手毬はこの世に必要とされていない異能力者だ――

「異能力制限法」により、現代、異能力の無断使用は厳禁され、異能力者はすべて社会から管理されている。活躍の場は安全が約束されているTVやエンターテイメントの中でショーアップされた戦いを「演じる」時にしかない。
だが、暗殺者の末裔で、苦しむ暇も与えず殺す「暗殺異能」に特化した俺と小手毬じゃ、地味かつ邪悪でTV出演など不可能、人気も出ないし仕事も来ない! 実力だけなら、どんな奴にも勝てる自信もあるのに、戦う機会が、異能力を使う機会がない!
そんな俺たちのところに、TVの中で最強と謳われる異能力者、滝ヶ峰万理からとある依頼がやってくる。それは本物の暗殺依頼だった。究極の選択を突きつけられた。俺たちは「悪っぽくて売れない」異能力者か、「本当の悪」の異能力者になるか決めねばならない……!?

「現実」の異能力者たちが交錯する、真の最強異能力者決定アクション!
いや、これ異能者とかアクションとかは表向きで、実態は売れない役者とか芸人の業界モノじゃね? 自分が自信を持っているモノが、業界的には全くウケず、売れないままグダグダと日々を凌いでいくだけの毎日。このまま、自分の武器を信じて貫くか、それとも売れる路線に無理にでも走るか、全部諦めて田舎に帰るか。決意も覚悟もキメられず、自分は凄いんだというプライドだけにしがみついて、みっともなく地べたを這いずる惨めな生活。
ここで何気に生々しいのが、同期の連中と定期的に飲み会をやってて、管を巻いたり、愚痴ったり、売れ出してる同期や後輩連中に濁った羨望の眼差しをむけて落ち込んだり、というのを繰り返している所。地味にキツい。それ以上に生々しいのが、売れないくせに結婚してて奥さんがいるとか……いや、奥さんでも恋人でもないんですけれど、小手毬は。仕事上の相棒なんですが、実態は明らかに売れない芸人の妻です、これw いやいや、結婚してるならまだしも、これが内縁で同棲中とかだったら余計に酷いよね♪ 奥さんじゃないから、むしろこっちか。売れないくせに必死にならずグダグダやってるどうしようもない夫を、健気に支え続けるしっかりものの奥さん。これで叱咤激励する強い人ならまだいいんですけれど、小手毬ってしっかりしているくせに朱雀に対して尻を叩くような真似も、いい加減どうするか決めろと急き立てるような真似もしないんで、口が悪いようで従順系なんですよね。そのせいで、余計にこう……世知辛い業界最底辺の生々しさが。
貧乏さというか、先の見通しが全然ない感じがリアルすぎて、ギャグっぽさが全然ないんですけれど。貧乏がネタになってないから、世知辛スぎる。
挙句、ついになけなしのプライドまで折られてしまい、夢も希望も失って、俯いた先に見える現実に従って地道に生きようとしだした朱雀に対して、小手毬が水商売に足を突っ込んで生活を支え始めた日には……。
一方で、眩い光に包まれているはずの業界トップの滝ヶ峰万理の周囲も、しがらみばかりで窮屈な現実があるばかり。万理にも夢があり、大義があり、その為に身を粉にして働いて、そこにプライドさえ抱いているのだけれど、結局しがらみに囚われ、自由を失い、雁字搦めでいつの間にか求めていた夢も色あせている始末。それでも、貫けばいつかは大義は叶うはず、と信じているのだけれど、見ているだけで苦しそうなんだなあ。
下にいても、上にいても、苦しいばかりの現実に、せめて自縄自縛を振りほどいて、思うとおりに死ぬ気で頑張ってみることで抗ってみよう。悔しさの果てに歯を食いしばって俯くのをやめた男の、せめてのも反逆の物語がこれである。
それで世の中が変わるわけでも、業界の構造が変わるわけでも、生活が激変するわけでもないけれど、後悔だけは無きように。……でも、ヒモとか女に養われる人生も悪くないんじゃないかしら、とこの小手毬とか舞花という女性陣を見て思ったり。当事者になったら居た堪れないんだろうけど。いや、マヒして気にならなくなるもんかもね。ダメ人間って、憧れるわぁw
にしても、森田さんはこういう、ネオンの光に照らされて影が落ちる夜の街の薄暗がりを舞台にした作品が、個人的にはやっぱり好きなんだよなあ。

シリーズ感想