カクリヨの短い歌 3 (ガガガ文庫)

【カクリヨの短い歌 3】 大桑八代/pomodorosa ガガガ文庫

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和歌の世界で交錯しあう複雑な人間模様――

「梅は咲いたか、桜はまだかいな……」
春風に漂う白檀の香りを味わうように目を閉じ、真晴は笑った。
どこか血の臭いが似合うような、凄惨な笑みだった。
「待ちに待った季節。せいぜい艶やかに咲いて、気が向いたら散ってやるさ」
桜は咲いて散るものだと信じていた。
ひと思いに散ることもできずに枯れ死ぬことがあるとは、思っていなかった。

とある仏像を狙う孤高の天才歌人・帳ノ宮真晴と、彼女を狙う若き歌詠み――椿市と振根。そこへ祝園完道を加えた各人の思惑が「鎮花祭」で交錯する。三十一文字を巡る物語・第三章、桜は咲いて散るものだと信じていた………。
結構不穏なあらすじで、ついに真晴姉さんの無敵ロードも潰えるときか、と危惧したんだけれど……。真晴姉さんが負ける云々よりも、あらすじの文句からして心の方が折れるのかと心配、もしくは期待してたんですよね。この自分の生き様に一片の疑いも抱いていない、邪魔する者は完道以外、一顧だにせず薙ぎ払っていくような女が、心が折れてしまうというのはどんな姿になるんだろう、という微妙に悦に入るような期待が湧いてしまったんだが、真晴はどこまで行っても真晴なんだなあ、と安心したようながっかりしたような気分になってしまった。結局、この人はどこまで行っても、何がどうなっても変わりようがないのだろう。それを知っていたからこそ、完道は傍観という挙をとり続けていたんだなあ、と今更ながらに思ったわけで。いやさ、変わらないという意味では、完道もまた同様で、むしろ変わらないものを変えようとしていたのは、見方を変えると真晴姉さんの方だったのかもしれない。自分が変わらないくせに、完道の方を変えようというのは傲慢もいいところなんだけれど、傲慢なのがこの人の在リようなわけで、さらに見方を変えると真晴さんのそれは、熱烈な求愛とも取れるんですよね。いい加減、無視できなくなった完道の決断した道は、真晴が望んでいたものとは違っていたようだけれど、応えたという意味では十分通じ合っているわけで、なにこのイチャコラ?
この二人の風雅で情熱的な交感に対して、もう明瓦の策動というのは無粋の極みになっている気がする。黒幕というには、底の浅さが露呈してしまった、というべきか。この子は、もうどことも通じ合えないまま一方通行で行き止まってるんですよね。歌詠みというのは、聴いてくれる人が居ないと成り立たないのに、彼の妹が兄に向けて手向けた歌は、どこにも届かないまま彷徨ったまま。亡霊のようになってしまったそれに、哀れみを感じずには居られない。
一方で椿市と振根は、行き詰まるように見せかけて、二人が繋がり合っていたからこそ交感は続く。気持ちが届いていたからこそ、梅は散らず。
梅と桜の花の歌同士の対決は、美しいとか壮麗とかを通り越してひたすら儚さに心浮かされた。散るも哀れ、枯れるも寂寂。桜も梅も、やはり日本人の心の原風景よなあ。

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