グラウスタンディア皇国物語2 (HJ文庫)

【グラウスタンディア皇国物語 2】 内堀優一/鵜飼沙樹 HJ文庫

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軍事大国リジアとの全面戦争、突入。

海賊に扮して罠を張っていた四千のリジア海軍を相手に、少数の軍勢で勝利を収めた《皇国七聖》の軍師クロム。
その際に得た800名余りの捕虜を交渉材料とし、クロムは皇女ユースティナのお付きとして開戦の緊張高まるリジアとの会談に臨むことに。
しかし会談の直前、クロムは皇太子ダカットから急遽、不可能とも思える敵情視察を命じられてしまい!?
これ、タイトルこそ【グラウスタンディア皇国物語】になっているけれど、物語の焦点は皇国に留まらず、リジアやラトルグに散らばる群像劇となっているじゃないですか。クロムは皇国のキープレイヤーとして縦横に活躍する事になるんだけれど、むしろ主人公は後ろ盾のない無力な状態から兄の皇太子や国王に対して自分の理想を立脚していこうとしている皇女のユースティナや、軍官僚から嫌がらせを受けながらも自分だけの部隊を育てて行こうとしている騎士フィフニスのようにも見えるんですよね。一方で、リジア宗旨国家でも、ナターリアという貴族の指揮官将が、国政を主導する十二貴族の中で孤立しながら自分なりの道を模索し、ラトログ国では国政を壟断する宰相に対して、力を持たないながらも理想を持つ王女を補佐して、腹心たる若き俊英が臥薪嘗胆で主君を盛り立てようとしている。
少女たちの戦争……戦乱の時代の中で平和を求めて抗う少女たちの戦いが、表の戦争とはまた別の形で狼煙をあげようとしているのです。単なるグラウスタンディア皇国物語の一国の興亡記、戦争の勝敗の行方を追う物語ではなく、大陸全体の行く末を複数の焦点から導いていこうとする群像劇の様相を見せ始めているんですよね、これ。
同時に、人間の視点とはまた別の、超常の存在の世界への関与を感じさせる要素が各所に垣間見えてもいる。一人、クロムだけがリュリュというこれもまた超常の娘を伴うことで、それと対峙しているようにも見えるわけです。果たして、彼が本当に戦おうとしているのは一体何者なのか。グラウスタンディア皇国の王ジルバの背後にうごめくものとは。なぜクロムがユースティナを盛り立てて行こうとしているのかも、この事実から色々と伺うことも出来るんですよね。
とはいえ、まずは対処するべきは大軍をもって皇国に攻め込んできたリジアである。前哨戦である外交交渉は、クロムとユースティナの頑張りによって優勢を勝ち取ったものの、問答無用で大軍を送り込んできたリジア。
それも、漫然とした侵攻ではなく、その全貌が明らかになった時にはなかなかに唸らされた包囲圧殺作戦なんですよね、これ。凄まじく強引ではあるけれど、被害を鑑みなければ短期決戦狙いとしてはかなりの脅威。自軍を最初からすりつぶして構わない、という心持ちで来られるのって、迎撃する側からするとやっぱりキツいですわ。それが、兵力差からして圧倒的となると尚更であり、しかも初撃でいきなり首都を狙われたとなると。
この外線作戦に如何に対向するのか。幸いにして、敵軍の連携はラング騎兵隊の遅延作戦で乱れている上に、揚陸軍もユースティナの看破でまだ致命的な状態になる前に敵情を把握出来ている。さて、殆どクロムのお膳立てだけれど、ここから挽回の余地はまだ十分に残っていると言っていい。内戦作戦の粋が見れるかもしれないな、次回。
しかし、ユースティナ皇女はクロムに甘えること無く、自分で考え成長し続けてますねえ。あれでクロムって手取り足取りなんでもやってくれるわけじゃなく、自分でやれることはやりましょう、と案外責任ある仕事を放り投げてくる人なので、ユースティナも安穏としていられないのですが。肝心なときにはひょいひょいとフットワーク軽く来てくれる人ですけれど、結構スパルタですよ、クロムって。泣き言言わないユースティナなほんと、頑張り屋さんで健気だのう。
もう一人の少女主人公であるフィフニスも、かなり不当な待遇を受けながら、自分に与えられた権限に誠実に向き合うことで悪意を覆す真っ直ぐな力強さが、気持よかった。もっとへこたれてもいい状況だったと思うんですけどね、こんなに良い娘だったのか、と思ってしまうついつい応援したくなる騎士さまじゃないですか。クロムが手伝ってくれたとはいえ、ほぼ自力で自分の隊を創りだしてしまったんですから、大したものです。このままなら、立派に一軍の将に出世していきそうじゃないですか。
でも、本作で一番ヒロインしているのって、皇国の少女たちよりもむしろ、今回初登場のラトログ国の王女様なんじゃないでしょうか。レイリン姫と侍従のコウソンの二人が実に良いコンビで。ユースティナよりも厳しい立ち位置のレイリン姫が、僅かな忠臣、そしてコウソンという気鋭の才気迸る若者に支え守られ、国にはびこる腐敗と戦う、とかこの人が一番ヒロイン、お姫様プレイしてらっしゃるんですよね。コウソンも地位低いのに、クロムよりもなんか主人公してるっぽいし。こっちサイドも注目だなあ。

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