サービス&バトラー (講談社ラノベ文庫)

【サービス&バトラー】 望月唯一/成沢空 講談社ラノベ文庫

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日本有数のセレブ学校――私立悠宮学園。ここのテニス特待生だった俺こと水瀬直哉は、肘の故障のため退学することになっていた。だが退学予定の朝、俺はテニス初心者のお嬢様・神坂陽菜と、そのメイドである月城芹葉と出会う。そして俺は陽菜の依頼により、執事として彼女の家に住み込みでテニスを教えることになるが……!?
「じゃあ、とりあえず走り込みからしようか。Eカップが揺れるし」
「思いっ切りやる気なくなったんだけど!」
「いいから胸揺らしてこいよ」
「もう走り込みですらなくなった!」
新人賞〈優秀賞〉受賞のテニス×執事×お嬢様な学園ラブコメ開幕!
怪我で選手を続けるのを諦めざるを得なくなった主人公が、ひょんなことからお嬢様にテニスを教えるついでに執事になり、お嬢様が作った弱小テニス部を強豪に勝たせるために奮闘する、とまあ執事になってしまったのはともかくとして、それ以外はわりと王道のスポ根ものである。同世代に教えてもらってどうするんだ、と言いたくなるところだけれど、基本的に直哉が教えるお嬢様はほんとにテニス初心者なので、年齢同じくらいとはいえ教えられる側と教える側の技量バランスは取れているのでそれほど不自然はない。というか、この直哉って教えるのすごく上手いのよね。相手の特徴を掴みつつ、ごくごくロジカルに的確で行き届いているのだこれが。普通にコーチでやってけるレベルですよ、これ。練習メニューの組み立て方もえらい上手だったし。こいつ、選手時代も練習のプランニング全部自分でやってたんじゃないだろうか。あれやれ、これやれ、と言われてやってたプレイヤーじゃ絶対に生まれない論理的なメニューだったもんなあ。
実のところ、テニスの実力だけならメイドの芹葉からして女子テニス部で一年でレギュラーを獲った強者だったのですから、彼女から教わってもおかしくなかったでしょうし、これまでも多分芹葉中心でやってたんでしょうけれど、それ以上に直哉をコーチとして招聘したのは適切だったんじゃないでしょうか。トッププレイヤーだったにも関わらず、お嬢様の作った第二テニス部の勝負に拘るよりも楽しくテニスをしよう、というコンセプトに対しても口出ししませんでしたしね。
ひたすら勝敗に拘るか、それとも楽しくプレイする事を目的とするか、この相克は学校のスポーツ教育じゃ難しい問題だと思うけれど、もしどちらかを選択できる環境があるなら、それに越したことはないんですよね。お嬢様が第二テニス部を作ったのは、強くなれずに切り捨てられたけれど、それでもテニスが好きでプレイしたい、という娘たちの為だったわけですし、芹葉が第二テニス部に移ってきたのも、自身が強くても第一テニス部のやり方に自分が合わなかったから、という理由があり、それを第一テニス部の娘たちから非難されるいわれはやっぱりないと思うんですよ。第二テニス部が第一テニス部に対して施設面などで迷惑をかけたわけでもないですしね。
それでも、楽しくプレイするなら、弱いままで怠惰に妥協して遊んでいる、というのはちょっと違うと思うんだよなあ。やっぱり、やるなら自分なりの向上を目指さないと、楽しくないですよ、面白く無いですよ。その意味では、第二テニス部のこの娘たちは、勝利至上主義の第一テニス部のやり方からはドロップアウトしたけれど、決してテニスに対して真剣に向き合っていないわけじゃなく、本当にテニスが好き、という気持ちが伝わってくる良い部活グループに見えました。だからこそ、大好きなテニスが怪我でできなくなったことに暗澹たる絶望を感じていた直哉は、単にもう一度テニスに関われる、というだけじゃなく、テニスをやりたい、テニスを好きなまま存分にやりたい、という気持ちをほとばしらせてるこの娘たちを、応援したくなったんだろうなあ……言動だけみてると、おっぱい星人のエロ小僧にしか見えませんけれど!
話の筋立ては王道そのものなんですが、だからこそ作者の物語を描く能力が如実に浮き彫りになっていたような気がします。なんか、するすると読めたんですよね。それは軽い、という意味ではなくて、言葉が紡がれることによって伝わるお話の伝導率が素晴らしいのです。単純に語り口が上手いのかなあ。第一テニス部の他の二人の部員とか、突っかかってきた第一テニス部の一年生とか、ぶっちゃけそれほどキャラ立ってたとは思わないんですよね、話もオーソドックスすぎて飛び抜けた所もありませんでしたし、テニスのプレイシーンが凄かった、というわけでもない。なのですが、全体としてみるととても充実していて、お話として読み終わって面白かったなあ、と息をついてしまうような満足感があった。これは、なかなか得がたい上手さですよ。
個人的には初なお嬢様よりも、メイドの芹葉さんがビリビリきましたねえ。なんちゅうか、久々に真のメイドさんと出会った気がする。真なるメイドたるもの、メイド服を着なくても清楚可憐であれ、てなもんで、実は制服の時の方が萌えた。意外と弄られ属性なので、さらに萌えた。直哉があれでかなりやりての弄り屋なので、芹葉さんの翻弄されっぷりが、きゃわいいのよ。うむ、堪能させていただきました。