S.I.R.E.N.―次世代新生物統合研究特区― (富士見ファンタジア文庫)

【S.I.R.E.N.―次世代新生物統合研究特区―】 細音啓/青崎律 富士見ファンタジア文庫

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次世代新生物―それは竜や妖精という空想の産物を再現した生命工学の結晶。その最先端研究エリア『SIREN』の学生・ミソラは、街を彷徨う天使型バイオテスタの少女と出会う。創造主=母を探す少女・フィアを手助けするミソラだが、手がかりとなる創造主の名前“アナスタシア”には聞き覚えがあった。それはミソラを育て、命を救った師と同じ名前で―「ミソラ、いつか巡りあう本物の天使をどうか守ってあげて」中央統合樹、そして福音機関イスカリオテに狙われる少女を守るため、ミソラはその身に宿る力『方程式』を解放する。人の科学と神の幻想が交差する時、天使の永唱が響きだす!
【黄昏色の詠使い】、【氷結鏡界のエデン】に続く、第三シリーズのスタート。勿論、当然のように他のシリーズとの関連性はアリアリ、ということで共通する名詞が飛び交うのは当然として、思いっきりそのままのものも登場しているわけで……それって、【黄昏色の詠使い】世界の名詠式ですよね!! ……と、見せかけて、どうも微妙に違うぞ? 名詠式ではなく、新約召喚とか言っているし、真精もこちらでは真獣なんて呼ばれているし。それに、名詠式で言われている真精と、こちらの真獣ではちょっと質が違う気がするんだよなあ。バイオテスタの事を劣化劣化、なんて嘯いているイスカリオテのエージェントだけれど、実は真似事をしているのはそっちじゃないのか? なんて事すら思ってしまう。名詠式に比べて新約召喚って微妙に安っぽい気がするし。デッドコピーなんじゃないのか?
生命工学の産物であるバイオテスタに対して、高次世界から召喚される本物の幻想生物たち。現代風の世界観に対して、最初から異世界の介入が確認されるという意味では、このサードシリーズは最初から2つ以上の世界にまたがる物語なんだろうか。いわゆる「真の赤き実のなる大樹(ネクサス)」が絡む話で、このネクサスってどうも世界を跨いでいる感じがあるんですよね。これを探している人たちが、色んな世界を渡り歩いていることからも。まあそれはそれとして、本物かはともかく、今までのファンタジーよりから生体科学っぽい要素をふんだんに取り入れた設定群は、やっぱり楽しいなあ。こういう科学サイドのはったりは大好物なのですよ。
ただ、一方でキャラクターについては今までのシリーズでも、掴みとしては一番弱い気がするんですよね。何より、メインとなる主人公のミソラとヒロインのフィアの関係がすごく弱い。アナスタシアという女性を通じて繋がっていたとはいえ、当人同士は出会ったばかりでそれほど深い関係を築いたわけでもないですし、ミソラがフィアを助けようとする根拠って、実は別にフィアという個人を特別視したものではないんですよね。バイオテスタという存在全体を慈しんでいるミソラの信条の延長線上としてフィアを助ける行動があったようにしか見えなくて、ぶっちゃけフィアじゃなくても彼の行動は変わりなかったんじゃないかと思えてくる。かなり肉と骨を切り売りするような壮絶な有り様に成り果ててもやり通す、というにはまだフィアとの関係って特別には見えなかったんだよなあ。だから、余計にミソラの信念の方を空恐ろしく感じてしまう方に作用してしまった感じ。
あと、「天使」の性格があれちょっと嫌なやつすぎるわー(苦笑)
まあ一言で言ってしまうと……「何様?」と。その御蔭で、クライマックスでは無条件にミソラに「そいついてまえ」という感じになってくれはしたんですけれど
ともかく、導入編としてはまだ振るってない感じなので、そろそろ【黄昏色の詠使い】の頃の深く美しく沈んでいく雰囲気が、作品の根底にほしいなあ。これからの捲くりに期待。

細音啓作品感想