棺姫のチャイカIX (富士見ファンタジア文庫)

【棺姫のチャイカ 9】 榊一郎/なまにくATK 富士見ファンタジア文庫

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賞品の『遺体』を手に入れるため、ハルトゲン公国の武芸大会に出場したトールとフレドリカ。無事予選通過を果たすも、双子のチャイカの策略によってチャイカ、アカリ、ニーヴァが捕らわれてしまう。引き渡しの条件として、これまで集めてきた『遺体』との交換を提案されるのだが…。「トールにとって、一番大事なのは、何?」チャイカの望みを叶える事。それがトールの…。ではそのためのチャイカの死は?生命と目的。決断を迫られるトールが出す答えは…。絶望と希望が交錯する中、真の『黒』が姿を現し、ついにすべての『遺体』が揃う!
ぶっちゃけ、そこまでまだ黒くないと思いますよ。何しろ、死亡フラグ全開だった赤チャイカパーティーが無事でしたからね。勿論、今後も予断は許されない状況ではあるんだけれど、死亡フラグとしては今回がピークもピークだったので、ギリギリ回避できたんじゃないのか、と。少なくとも、赤チャイカの二人の仲間については、一番危ない立場でしたからね。
乱破師(サバター)としては精神的に未熟で、俗世寄りの感情を制御しきれないために一人前としては認められずに居たまま、乱世が終わり世間に放り出されたトール。むしろ、一人前として認められていなかったからこそ、そうなった原因の事件も相まって、サバターである自分にこだわり、だからこそサバターの活躍する場のない平和な世界に対して、自分の存在自体を否定されたように感じて絶望を抱え続けていた彼は、だからこそサバターとしての自分の力を必要とするチャイカとの出会いに歓喜し、彼女を主として自分の存在意義を打ち立てようとチャイカとの旅を始めた……はずだったのだ、当初は。
しかしここで、一流のサバターとして今なお活動する義兄のシンと敵対、という形で再会して、自身のサバターとしての未熟さ、以上に中途半端さを自覚させられ、同時に自分の中でチャイカと旅を続ける中で、トール・アキュラという存在の前提として「サバター」という価値がある、という考え方に疑問を抱くようになっていたことにも気付かされた主人公。
そう、ここはトールの分水嶺でもあったわけだ。
このまま、自分はまず何よりもサバターである事にこだわるか、それともサバターとしての自分はあくまで能力上のものであり、その上位としてトールという個人の意思を持つ事を、望みを持つことを認めるか否か。
人として生きるか、を自問する事になったわけだ。面白いことに、彼はそれを自問自答に留めず、武術大会で一緒になった赤チャイカやヴィヴィ、として共に戦うフレドリカとも語らう事で、彼女たちにも自分の在り方について考えることに影響を与えることになるんですね。
特に、チャイカという呪縛に囚われている赤チャイカ。ドラグーンという自分の行く末についてトールの動向と照らしあわせていたフレドリカ。彼女たちにも、トールの自問というのは大きな岐路になってるんですね。
赤チャイカは、あの時トールに助けられ、またその後訪問を受けて、チャイカという生き方に対しての疑問を呈されなければ、もしかして物語の上での危うい一線を超えていたかもしれない。この辺、それらしい描写はなかったけれど、もし彼女が自身のチャイカという在り方に対して一切疑問を持っていなかったら、ラストの展開というのは単なる衝撃という以上の危機だったと思うんですよね。もし、疑問という心構えができていなかったら、安易な暴発もあり得たんじゃないかと想像するわけです。もしそうだったら、彼女の死亡フラグを潰したのはトールということになるので、……心憎い男じゃのう。
というわけで、分水嶺を超えたトールの選ぶ道が、そして一連の「チャイカ」という存在の謎が解明される、物語としても大きな山場となる一話でありました。
だいたい想像していた通りだったけれど、想像していた以上にエグいパターンだった。もし白チャイカや赤チャイカがこうなっていたか、と思うと必要以上にドキドキしてしまいますがな。
そして、想像の埒外だったのが、あの人の再登場。って、カラー口絵で盛大にネタバレされてますけれど。私、純粋にガチで死んでたのだと思ってましたがな。信じてたのに!! まあでも、ヴィヴィさん良かったね、と言っとこう。こういう娘が報われないのは哀しいしね。どうやら、芽は十分あるみたいだし。
しかし、またぞろ「すてプリ」みたいに壮大な話になってきたなあ。ギィの正体不明さは、決してチャイカサイドだとは思っていなかったけれど、スケールが並外れてしまいましたがな。それよりも何よりも、トールのあれですよ。
それ、違うけどシャノン兄といっしょじゃん!! 主人公は結局そうなるべくしてなるのか!?(笑


シリーズ感想