狼と香辛料 (10) (電撃コミックス)

【狼と香辛料 10】 小梅けいと/支倉凍砂 電撃コミックス

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伝説の海獣をめぐる大騒動の行方は――!?
ケルーベの町で海獣イッカクをめぐる大騒動に巻き込まれ、自らの危険な立場に動揺するロレンス。そんな彼を、ホロは厳しくも優しく諭すのだが……? 電撃文庫の大ヒット作のコミカライズ、緊迫の第10巻!
改めて見ても、この街での出来事は、「狼と香辛料」という物語の中のターニングポイントだったのがよく分かる。
ロレンスの商人としてこれから歩み目指す先の方向性。今までロレンスは商人としての大成を夢見ながらも、具体的にどのような成功を得たいかという形は見出していなかった。商人の成功の形としては様々なケースがありますからね。これまでは大きな街で大店を構える、みたいなわかりやすい夢を描いたりなんかもして、それを絵にして楽しんでたりもしたのだけれど、このケルーベの街で、大きな街での大店を構える商人の在リようというのを目の当たりにすることで、ロレンスという男に最も相応しい成功とはなんぞや、という疑問にぶち当たることになるのである。
いやさ、多分この時のロレンスにはそんなことに思いを馳せる余裕はなかったやもしれないのだけれど、それを自覚させてくれるのがホロなんですよね。賢狼といいながら、彼女はこの場面において決して知恵を与えてくれたわけじゃありません。でも、それ以上に彼女の存在と温かい愛の篭った言葉はロレンスに心の余裕をもたらしてくれます。これは、賢狼としての活躍というよりも賢妻としての振る舞いなんだよなあ。
彼女のお陰で、ロレンスは街の商人の恐ろしさに背を向けしっぽを巻いて逃げ出すような無様な真似をせずに済みました。多分、この時後ろも見ずに逃げ出していたら、その後自分らしい商人としての在り方、というものに素直に向き合うことが出来たでしょうか。この時、キーマンとエーヴを向こうに回して商人として戦えたからこそ、負けたから、自分には出来なかったからではなく、自分にはふさわしくなかった、似合わないから彼らと同じ道は歩まない、と胸を張って主張できる自信を得られたような気がします。
そしてここで、ホロが参謀としてではなく、女として、格好いい所を見せておくれ、と発破をかけてくれたからこそ、ロレンスにとってのホロの存在も定まった気がします。その気持ちに名前をつけることになるのは、とある女性の再登場と遠慮のない指摘を待たなければならないのですが、少なくとも誰を選ぶかの「選択」については、この巻ですでに終えているわけですな。
ラストのあのシーン。小説で見た以上に、この漫画でエーヴは、商人ではない自分をロレンスにさらけ出しました。そうして、ロレンスに手を差し伸べたのです。少なくとも、ここでエーヴに嘘があったようには見えません。狼に徹していた彼女の、ただ一度垣間見せた亀裂であり本心がそこにありました。本気、だったんでしょう。
それを振って、ホロを選んだんですから、言わずもがな。
内面描写がない漫画だからこその、絵を通して意を込める、読み込みその時そのキャラクターが何を考えているのかを考えさせる描き方は、この対立の街編ではさらに威力が込められていて、読み応えありましたわ。

それにしても、もう巻も二桁に到達したというのに、ホロの振る舞い、その仕草、心をくすぐりもてあそぶ言葉の数々には未だに新鮮なトキメキを感じさせられてしまいます。絶えず、恋させられているような感覚です。可愛いだとかじゃなくて、視線を向けるのもドキドキしてしまうような、そんなトキメキが絶えません。
この巻には、改めて描き直された一巻のロレンスとホロの出会いのシーンが描かれていて、何とも新鮮な気持ちにさせてもらいました。でも、もうちっとエロくても良かったんよ? 

シリーズ感想