カーマリー地方教会特務課の事件簿 (2) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

【カーマリー地方教会特務課の事件簿 2】 橘早月/中嶋敦子 ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ 

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こう言うとアレだけどよ、他の部署に回されるより、金だけは貯まるぞ。
カーマリー地方教会特務課に配属された訓練生・アーシェイ、現在16歳。「高等院をそこそこの成績で出て、そこそこの役職につき、そこそこに出世してやる」野望のもと、奨学金をもらって親や弟妹を養いながらがんばる苦学生に、甘い言葉でカーマリーに残るよう説得するオブザー主任。そんな時、ニールバー山でアンデッドが出現したという情報を得て、そこに向かう事になったのは、アッシュ、ジークフリート、そして訓練生のルキアとアーシェイ。そして一行は昔のカーマリー領主・キーレイス伯爵の隠れ家である洞窟にたどり着く。そこで、同じ訓練生でイケメン・不器用・馬鹿力のルキアが、いつもの無頓着な行動で出現させた空間転移装置にアーシェイがはまってしまう。一行とはぐれ辿り着いた先に待っていたものは…!他、アッシュがくまのぬいぐるみ・スミス氏に翻弄される「アッシュと真夏の夜の夢」、前巻からの続編に当たる「聖騎士と剣と盾」を収録。
第二巻のカバーイラストが公開されてから、ずっと首をひねってたんですよ。こんな女騎士とか居たっけ? と。新ヒロイン? 書籍化に伴うオリジナル展開? と、真剣に悩んでたのですが、何の事はない、こいつアホのルキアじゃないか! いや、幾らなんでも女顔すぎるでしょう、これ。アーシェイもそうなんですけれど、美形化が著しすぎて、正直???という感じです。この過剰な濃さってカバーイラストだけで、口絵や挿絵の方だと落ち着いたタッチになって、ルキアも童顔気味の男の子だし、アーシェイもちょっとヤサグレ気味の青年になってるんですが。そして、オブザーは裏組織の幹部みたいな悪人ヅラにちゃんとなってるし……ん?
ともあれ、このカバーイラストは耽美系に見えちゃって逆効果だと思うんだけれどなあ。それとも、女性の購入層を狙ってるんだろうか。内容的に、そういうタイプじゃないと思うんだけれど。
前巻の事件でオブザーの片腕だったブラウン神父が殉職し、表面上は元の雰囲気を取り戻しつつも、ふとした瞬間にブラウン神父の不在がちらつき、沈痛な空気が漂う特務課。
しかし、相変わらず事件は頻発し、またブラウン神父を死に追いやった事件を引き起こした黒幕もまだ見つからず、時間は刻々と流れていく。
それでも、全く暗い鬱々とした雰囲気に落ち込んでしまわないのは、コミカルな語り口のお陰なのでしょう。あと、ブラウンを喪った傷を表向き見せることなく不遜な態度を崩さないオブザー主任や、空気を和ませてくれるジークの存在も大きな理由なのでしょうなあ。中でも、大らかなジークの人柄は、あれで包容力あると思うんですよね。まだ赴任したばかりの新人格ながら、戦闘要員として以上に特務課の要になっている気がする。
さすがは主人公!
まあ、この巻の一番の癒し手は、アッシュの五倍の価値があるスミス氏ですけどね! さすがは、キリクマくんの先駆者よ。クマー、クマー、クマのぬいぐるみ可愛すぎるだろう、これ。
一方で、オブザーの影響を、悪い影響を受けて明らかに荒んできているアーシェイくん。元から守銭奴の神経質な性格だったけれど、そこにさらに悪口雑言のスキルがアップしちゃってますよ?

アーシェイやルキアの訓練生勧誘話に、ぬいぐるみのスミス氏にまつわる事件、とドタバタコメディなお話が信仰する裏で、教会の枢密院院長選挙にまつわるゴタゴタ話が持ち上がってくるのですが……。
否応なく政治権力の暗闘に巻き込まれていくカーマリー特務課。教会の権力争いで俗世のそれより面倒でドロドロの泥沼にはまっていく原因となるのは、そこに単純な権力争いだけじゃなく、信仰の問題が絡んでくる事である。言わば、教義の捉え方の違いによって発生している宗派の争いに、教会内の勢力争いが絡むことで余計に酷いことになるんですよね。それでも、まだ同じ教会内の派閥争いにとどまっていたならともかく、ここに教会から分離した過激派が仕切っている敵性国家の思惑が介在することで、信仰の問題と国同士の対立が単純に綺麗に割れなくなってしまっていて、より純粋に信仰を守ろうとするためなら国を裏切る事も厭わない、なんて事も起こってしまうことになっているわけです。そうした純粋性を権力の掌握に利用しようとしているフィクサーも存在し、数々の黒い陰謀が飛び交う自体になっている。知識派の大きな根拠地となっているカーマリーもまた、必然的にその陰謀に巻き込まれる事になり、ブラウン神父が亡くなった事件はまさにその陰謀の一端だったわけだ。
いやもう、この陰謀の数々が黒い黒い。特務課の中にも、裏切り者が根を張っていて、思わぬ人物がユダだったりするんですよね。もう、ドロドロもいいところで、現場で素朴に信仰を守っている人たちにとってはいい迷惑、どころじゃないんだよなあ。実際、もう何人もとばっちりで死人が出ているわけですし。
オブザー神父がお怒りですぞ。
ようやく構図が見えてきたことで、虎視眈々と復仇を狙っていたオブザー神父がついに標的を捉え、動き出すのですけれど……神父、怖いです。どっちが悪役か、というくらい顔が怖い。
でも、最後にオブザーがジークに語ってきかせた、信じることと正しいことは等価ではない、という話は、それを言って聞かせるオブザーが聖職者であるからこそ、余計にその内容がドスンと胸に響きました。たとえ信仰によって行った行為を神が許しても、人の罪を人は許してはならない。
深い深い自戒である。果たして、聖職者たる人々がこの自戒を胸に刻んでいたならば、歴史においてどれほどの殺戮が回避されたのだろう、と思い馳せるばかりであります。

1巻感想