転醒のKAFKA使い (ファミ通文庫)

【転醒のKAFKA使い】 比嘉智康/ぜろきち ファミ通文庫

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高校生作家の僕、周防崇には秘密がある。異世界ファンタジー『aBis』シリーズは毎晩続く夢を書き起こした物語なんだ。そんな僕も学校では住友真白さんに想いをよせる平凡な学生。でもある日、全ては一変した。
突然超人的な身体能力に目覚めた僕に、『aBis』のキャラの姿をした美少女・瀬名乃南さんが告げる――aBisは実在した星で、その住人が続々地球に転生してKAFKA【変身異能】を覚醒させている。つまり『aBis』は僕の前世の物語!? そして前世での“敵"もまた、僕たちの前に現れる――。
怖いッ、だから怖いよっ! 相変わらず、イッちゃってるサイコストーカーを描かせると真に迫りすぎてて心臓に悪いです。なんでここまで生理的に気持ち悪いのを書けるんだろう、と毎度ながら感心させられる。ただ、ストーカーが自分本位なだけだったら、ここまで気持ち悪くはならないはずなんですよ。危ない奴とは思えても、こんなに怖くておぞましくて気持ち悪い、とは感じないはず。この恐怖感というのは、相手がどうやっても理解できない考え方をしていることから来るのだろうけれど、同時にその常軌を逸した在り方を隠すこと無く堂々と表明してくることあるんでしょう。それも無理やりまぶたを抉じ開けて、そうした自分の存在から目を離せないようにして突きつけてくる。絶対に逃げられない、とでも言うように。それはヌルリとした侵蝕であり、心を犯してくるような悍ましさなのである。
これは本当に怖い。傍から見ていても怖いのに、ターゲットとして狙われる娘の恐怖、自分の尊厳を舐めこそがれていくような気持ち悪さは想像を絶するものがある。
こういう時、自分を守り包み込んでくる存在が居れば、それも身体だけじゃなく心を守ってくれるような存在が居れば心強いのでしょうけれど……。
これ、このお話ってヒロインの乃南の立場からするとかなり辛い話なんですよね。なまじ前世の記憶があり、彼女にとってのヒーローの姿を実感とともに覚えているからこそ、彼女は自分を前世から付け狙うストーカーの方からのみならず、本来なら彼女を守ってくれる存在の側からも精神的にゴリゴリと削られていってしまうはめになる。もうちょっと彼女が独善的で悪い子だったら、都合の良い立ち回り方も出来ただろうに、乃南という娘は何だかんだと不器用で、それ以上に誠実で真摯な娘であったが故に、追い詰められていくはめになるのである。その挙句には、あそこまで思い詰めるはめになってしまうのですが。
でも、そんな娘であるからこそ、ヒロインとして相応しいと言えるのでしょうし、お似合いとも言えるんだろうなあ。そして、其処こそが結局、決定的な差になってしまったわけだ。
崇は、比嘉さんの作品の主人公らしく、等身大の若者であると同時に、漢の魂を有したヒーローであるのですが、だからこそ彼の横に並び立つというのは、実はかなりハードル高いんですよ。その優しさや強さに許され、守られることは難しくはないのでしょうけれど、そうした弱さを受け入れて甘受してしまうのではなく、己が弱さを痛みをこらえて克服し、辛さを我慢して乗り越えて、真摯に誠実に掴みとってこそ、人生を共有出来るまでにようやく到れるわけです。メインヒロインになるには、生半じゃない勇気が必要なんですよねえ。
周防崇は、ヒーローとしても、作家としても、決して強い存在じゃありません。むしろ、自分の弱さ、未熟さにのたうちまわって常に苦しんでいるような少年です。特に、作品を書き殴っている時の作家として活動している時のそれは顕著なもので、自分の魂を切り売りするように、血肉を削りだすようにして、ゆっくりと刻むように文面を捻り出していく様子は、ある意味これまで見た作家モノのなかでも最も共感出来るものでした。
というか、この子は書くという事に対しても全く逃げないんだよなあ。恐ろしく真摯で、誠実で、常に退路を立って這いずるように前に進んでいく。
彼の誠実さは、今回に関しては乃南を追い詰めていく要因にもなってしまうのですけれど、でもだからこそ乃南が最後まで彼を信じ、疑わない根源でもあり、すべてを救う動力源でもあったので、やはり彼のヒーローたる所以はその誠実さにこそあったんだろうなあ。

この一巻で完結してるんじゃないか、というくらいかなり綺麗に終わってしまっているんですが、続いてくれるんですか、これ? 続くとなると、今回ではなかなか味わえなかった相思相愛同士のいちゃこらが存分に味わえそうなので、ぜひぜひお願いしたいところ。いやあ、この人の描くイチャコラはほんとにこっ恥ずかしいので、たまらんのですよ。