はたらく魔王さま! (11) (電撃文庫)

【はたらく魔王さま! 11】 和ヶ原聡司/029 電撃文庫

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魔王たちの尽力で異世界エンテ・イスラから無事帰還した恵美。しかし長期の無断欠勤により、テレアポのバイトをクビになってしまう。追い打ちをかけるように、魔王は救出に掛かった経費を払えと、請求書片手に恵美へと迫る。その額、なんと三十五万円! 悪魔に借金などプライドが許さないのか、恵美は貯金を崩しながら新たなバイトを見つけ、返済しようとするのであった。一方その頃、大家のミキティによって病院に隔離されていた漆原の身体には、ある異変が起きていた…。フリーター魔王さまの庶民派ファンタジー第11弾。勇者の新たなバイトのせいで、勤勉な魔王がまさかの出社拒否に!?
35万って、微妙に金額が生々しすぎます、魔王さま。この、明らかに高いんだけれど出そうと思えば出せなくもない金額なのが、嫌らしいったらありゃしない。そりゃ、心象悪いですよ。100万越えて吹っかけられるより、さらにたちが悪いかも。
ただまあ、最初から恵美には思惑はお見通しだったようですけれど。と、この点魔王の狙いは的外れではなくて、エンテ・イスラに行く前の恵美なら、まず魔王の思ってた反応したと思うんですよね。それが、予想されていたのとは全然違う反応を恵美が見せた、というのが、彼女の変化を如実に示しているのでしょう。
女の子は素直になったら、強いんです。
面白いのは、これまでずっと真奥が握っていた主導権がここで恵美に移行しているところなのです。これまで恵美と真奥の関係というのは、感情の種類はともかくとして、とにかく恵美から真奥への一方通行だったわけです。真奥は恵美に対して、徐々に信頼や仲間意識を培ってはいましたけれど、あくまで受け身であり反応であり対応であり受動的であって、真奥の側から恵美に対して動的に感情を向けることはこれまでなかったのですが……。
今回の経費取り立ての失敗を契機に、真奥の側から恵美に対して→が向くようになったんですよ。これは、大きな、とびっきりの驚きでした。恵美の存在をどう扱っていいのかわからない、自分の中でどう位置づけたらいいのかわからない、ものすごく意識してしまい、狼狽えている魔王さま。正直、ここまで足元覚束ずにあたふたしている真奥を見るのは初めてじゃないでしょうか。
まるでラブコメじゃないかッ。
面白いなあ。ここに来て、鈴乃といい恵美といい、本当の意味で真奥と対等に、というか真奥から見て対等の高さに立ち始めてるんですよね。真奥にとって、彼女たちは何だかんだとあしらえる相手だったわけですよ。ところが、ここ最近の状況の激変を通じて、鈴乃や恵美を精神的に下に見ることが出来なくなってしまったわけです。同時に、彼女たちがその高さまであがってしまってきたことで、すでにその高さに楔を打ち込んでいた千穂についても、線を引いているわけにはいかなくなったのが、チラホラと垣間見えるのです。
結局、真奥って千穂との関係も、自分は悪魔で彼女は人間、という種族の違いから、ちょっと棚上げにしてたっぽいんですよね。どうせ、寿命やらなんやら、どうにもならないんだし、と捉えていた節がある。が、恵美や鈴乃の事を意識し始めたことで、千穂の事もちょっちスルーしていられなくなってきた。真奥の動転具合には、そのあたりも関係してるんじゃないかなあ。
それでも、種族の差というのがもし本当にどうしようもないものなら、割り切りは済むはずなんですけれど……明らかになってきた世界の真実は、どうやら天使や悪魔という存在の定義すら揺るがすものであることがわかってきたことから、どうもこれまでの考え方のままでは済まない感じになってきたわけで……。
大家さんの話す世界の真理は、かなり根本からちゃぶ台をひっくり返すものになりそうなんですよね。そして、世界の真理という大枠は、真奥たちの人間関係や行く末という小さな枠にも直結しているというのは要注目、かと。
とりあえず、新・悪魔大元帥筆頭が佐々木千穂なのは、厳然たる力関係の結果としてもう決定していいんじゃないですか? ほんとに誰も頭あがらないんだし。
しかし、この作品は魔王も勇者も社会人スキル高いよなあ。

シリーズ感想