C.S.T. 情報通信保安庁警備部 (メディアワークス文庫)

【C.S.T. 情報通信保安庁警備部】 十三湊/だぶ竜 メディアワークス文庫

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脳とコンピュータを接続する“BMI”が世界でも一般化している近未来。海外から苛烈なサイバー攻撃にさらされた日本政府は、サイバー空間での治安確保を目的に「情報通信保安庁」を設立する。だが、それを嘲笑うかのようにコンピュータ・ウィルスによる無差別大量殺人が発生。家族に被害者を出した情報通信保安庁警備部・御崎蒼司は必死に犯人を追う一方で、美しい同僚・伊江村織衣の身の安否も気遣うのだった―。スリリングな捜査ドラマと、不器用な恋愛模様が交錯する、超エンタテインメント作品!
第20回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞受賞作
うはははは、女々しくて女々しくて〜♪ あかん、こいつ、御崎の兄貴、筋金入りのヘタレだ。どんだけへたれ拗らせてるんだよっ! まだ未成熟な子供じゃなく、立派なオトナな分、余計にたちが悪いことになってるよ。
いやでもね、普段強面で意気がってたり理知的ぶったりしてるくせに肝心の部分でヘタレて迷走しまくってるキャラクターって個人的に大好物なんですよね。もう無茶苦茶面倒くさい事になっているんですけれど、それがもう可愛くて仕方ない。キャラクターとして実に愛で甲斐があるんですよね、そういうキャラって。
本作の御崎兄貴なんて、惚れた女に手を出せなくて代償行為として他の女に手を出しまくっているくせに、付き合った女性をまるで大事に出来ずに険悪になって別れるのを繰り返しているような、もう傍から見るとろくでなしも良いところの兄ちゃんなのですが、それがいいのです。伊江村相手だと、ほんと笑っちゃうような取り澄ました紳士っぷりで、もう自分と付き合っている女との扱いが全然違うんですよね、もう笑えるやら情けないやら。
これは若干、御崎にも同情できるところがあって、伊江村の態度も悪いですよ。元々、過去の環境やらの影響で人間的に壊れている部分があって危なっかしい事この上ない人格の上に、御崎に対して全幅に近い信頼、というか懐いてるみたいな距離感でいるくせに、異性間の恋愛感情については嫌悪…というよりも恐怖症に近いものを抱いていて、その一点については線を引いていて、踏み込ませないようにしてるのです。もう無防備と言っていいくらいなのですが、その無防備は御崎は自分に恋愛感情なんて抱かない、という信頼あっての無防備なので、御崎からするとかなり進退窮まった立ち位置にハマり込んでいて、無理やり他の女と付き合うようにして色々と濁そうとする、なんて真似に走ってしまうのも、まあわからなくもないのですが、でも最初に伊江村の危なっかしい部分を見て逃げ腰になってしまった時点で、もうアカンというか、逃げに入ったくせに最後まで逃げずに回りを未練たらしくうろちょろしているあたりが、気合入った女々しさが極まっているというか。
ほんま、あかんわあ♪

とまあ、人間関係のいざこざと拗れ方は実に楽しくてニヤニヤしながら見ていたのですが、肝心の情報犯罪や世界観についてはちと首を傾げざるを得ないところがままあったかと。情報犯罪を専門に扱う機関を警察から独立させて、情報通信保安庁として立ち上げたことについては、むしろ日本はもっとアメリカみたいに捜査機関を増やしてもいいんじゃないか、と思っているので、いいんじゃないかな、と思うんだけれど、中身がついてってないですよね、これ。
そもそも“BMI”なんてシロモノが一般化している、というのが信じられん。こんなセキュリティが甘々な、外からウイルス仕込まれて人が大量に死んでるような、脳に繋ぐインプラントが普及するものかしら。自分だったら絶対怖くて、無理。絶対無理。幾らなんでも、これは危なすぎるよ。
せめて攻殻機動隊シリーズ並に未来だったらまだしも、この世界観ってそんな未来の話じゃなくて、技術レベルも全然底上げできてないんですよね。それで、脳への接続技術だけ突出しているものだから、すごくいびつに感じる。事件についての真相も、かなり「ええ?!」というシロモノでしたし。
なんちゅうか、全体的に地に足がついてない感じでしたね。人間ドラマが面白かった分、組織描写やサスペンスもの、事件ものとしての体裁は随分ふわふわしていて心もとないものだったのが、ちと残念といえば残念か。
でも、伊江村はこれうん、可愛いですよ。超出来まくる氷の女という風情で、取り付く島もない感じの身体の真ん中に鉄の芯棒が入ってそうな固い女なのに、御崎やみちるといった身内に近い友人相手にはすごく無防備で、仕草や所作がたまに小動物めいたものになって、アンバランスなんですよね。御崎が、触れちゃいけないお姫様みたいな扱いで崇めているのも、みちるが姉御肌を抉らせて保護欲を漲らせちゃってるのもよくわかる。
学生ものでは味わえない、大人だからこその立ち位置からくる、でも青臭いドラマは面白かったので、そっち路線では十分楽しめそうなシリーズでした。