かくて夜明けの神殺者 (電撃文庫)

【かくて夜明けの神殺者(デイブレイカー)】 中維/しらび 電撃文庫

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霊異災害フルフラット―国土の五分の一を焼き、総人口の三割を殺す大破壊。後に残されたのは、神や悪魔、精霊―「霊異」が闊歩する、壊れた世界だった。来たるべき脅威「裁きの日」を防ぐべく彼ら「霊異」が訪れる「ゲート」を監視する“対霊異資格者”。その中に、霊異討伐数ゼロのFランカーにして、全ての霊異が恋焦がれる特別な血を持つ少年・化野幸太がいた。幸太は解呪のカギを探すため、血の契約により共生関係を結ぶ魔物の少女・メイリアンとともに、霊異と人間の共存を目指す、特殊な学園へと潜り込むが―!?少年が流す禁断の血は、世界の全てを更新する。神も魔も鏖殺し尽くすデイブレイク・アクション登場!
これ、怖血神についてはヒント出しすぎじゃないですか? 出会った時の神様の残したセリフですぐ判ったんで、本編中で怖血神の正体が不明という話を、何かのフェイクかミスリードか何かかと思ってしまって、読み進めながら妙な齟齬感にしばらく混乱してしまいましたがな。幸太があの時の会話を正確に誰かに伝えるか、自分でちゃんと調べるかしたら即座にわかったでしょうに。ググればわかるよ?
ともあれ、この神も悪魔も仏様も妖怪も怪物もドラゴンも一切合切混沌として現実世界に顕現してしまった、或いは現在も高次元から降臨してくるごった煮の世界観はかなり大好物。悪魔の少女を相棒に、そんな世界を渡り歩くお話は定番としてばもう定番もいいところなのだけれど、そこは【探偵失格】や【斉藤アリスは有害です。】で存分に遊び心を踊らせてみせた中維さん、である。スチャラカでテンポの良いコンビの幸太とメリアンを中心に、「Trick or Treat」じゃないけれど、どこかハロウィン的なお祭り騒ぎの様相を引っ担ぎながら彩り鮮やかな世界を描き出していく。
その呪いから「霊異」を強く憎み忌避感を抱いているという幸太だけれど、その背負っている負の感情ほどには仄暗い陰は背負っておらず、憎んでいると言って辛辣な態度を示しながらも「霊異」そのものを憎みきれずにいる微妙な感情を持て余していて、ちょいと知り合ってしまえばすぐに心を許しガチになり、そもそも相棒のメリアンに対しては何だかんだとゾッコンという甘やかしいな主人公なのである。ってか、この手の妖物とのコンビって、わりと悪魔少女からの一方的な好意を、主人公サイドが持て余し気味というスタイルが多いのだけれど、この幸太くん、普段からかなりメリアンに対して満更じゃなさそうな態度に終始しているので、傍から見てるとまんまラブラブカップルである、爆発しろ。
二人の仲違いイベントも、殆ど拗れる前に解決しちゃいましたし、なんか素直になりきれなかった幸太がメチャメチャ素直になっちゃって、むしろイチャイチャ増量の養分だったんじゃないか、これ?
ただ、ストーリー的にはかなり重要なターニングポイントではあり、一気に事態が動き出すきっかけであり伏せられていた真相が明らかになるイベントではあったのは間違いなく、別に親密度アップだけじゃないんだからね!
個人的には、もっと過去編、というか師匠の右近を加えた化野一家の出来事を堪能しておきたかったですねえ。幸太が弟子入りした時の話の右近師匠はかなりダメ人間で、幸太に対しても距離感あったはずなんだけれど、ラストでは本当に良い師匠してくれているので、その間の、特にメリアンが加わった後の三人のドタバタな日常をもっと味わっていれば、ラストシーンはもっと感動できたんじゃないかなあ。真嶋さんの複雑な感情や、コンプレックスももっと実感を伴って感じられたでしょうし。この人については、もうちょっと意表をついて欲しかった。ドラマがはじまって、役者の格見て、あっこの人が犯人役だ、とわかっちゃうレベルのあからさまっぷりだったし。もしかしてミスリード? と疑ってたのですけれど、まったくよどみなくそのままイッちゃいましたしねえ。
ただ、この人がこうなるに至った好きだからこその焦燥感と暴走に至る複雑な心境はかなり好みだったので、だからこそもっとその要となる右近師匠についてはもっと描いて欲しかったなあ。幸太にしても、メリアンにしても、その在り方に対しての右近師匠の存在感はかなり大きかったわけですから。
思わぬ人物が重要な役どころを担っていたり、むしろ今後の展開にこそ大きな含みを残していて、こっからスタートというダッシュ感もあり、腰据えてじっくりシリーズ作ってったら、だいぶ面白くなりそうなんだよなあ。できれば長期シリーズを期待したくなる、おもちゃ箱みたいな楽しい一冊でした。

中維作品感想