D9―聖櫃の悪魔操者― (2) (電撃文庫)

【D9 聖櫃の悪魔操者 2】 上野遊/ここのか 電撃文庫

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少女悪魔メルヴィーユと悪魔憑きの少年ソーマは、仇であるソーマの兄を探し世界を旅している。賢者の石を狙う少女ファムも加わり、旅はより賑やかに。そんなある日、ソーマの前にこの世には存在しないとされる“天使”憑きの騎士が立ちはだかる。長剣を駆使する騎士に苦戦し川に落ちたソーマだったが、その間に、騎士とファムの行方が知れなくなってしまう。ファムを探すソーマたちがたどり着いたのは、失伝機械群の引き上げで賑わうクレオン湖だった。悪魔と魔法と失伝機械群が支配する大陸ファラディースを舞台にした、デーモニックアクション第2弾!
これは完全にオカルト抜きのSFだなあ。今回、旧世界を滅ぼした大悪魔の一体が登場するのだけれど、これっていわゆる高次生命体的な存在じゃなく、どう見ても生体兵器の類なんですよね。そもそも、一部の意思ある悪魔以外は徘徊するモンスターでありつつも、どこか人形とか機械めいたものを感じさせられる代物だったのですが……うん、今回の天使や魔剣の件を見ても、厳密な意味でこれ魔術のたぐいは使われてないよね。ほとんど魔法の領域だったとしても、これは科学の領分だわ。そもそも、前回登場した悪魔も、意思は持っていたものの、どちらかというとそれは魂在る意思というよりもプログラムめいた邁進性が感じられたし。
でも、となるとここで特別になってくるのが、悪魔メルヴィーユなんですよね。彼女については、それこそ本物の心が感じられる。ソーマを愛し、ファムと喧嘩しながらも友情を育み、敵であるロウたちに情けをかける優しさを持った、普通の女の子のような悪魔。彼女については、悪魔であるのに人間のような心を持っているヒロイン、として捉えるのではなく、実はもっと違う方向からのアプローチが仕掛けられているヒロインなのかもしれない。
にしても、挿絵いいですよね。うん、素晴らしい。メルの感情豊かな表情が随所に描かれていて、彼女の魅力を割増する大きな要素になっている。大泣きしてソーマを追いかける場面なんて、必死な彼女のセリフと相まって、思わずキュンとなってしまったし、だからこそソーマが土壇場で踏ん張って奮起する展開に素直に手に汗握って熱くなれた気がする。今更だけれど、イラストは大事ですよ?

それからいいなあ、と思ったのが、良いことをしたら、ちゃんと報われ、褒められるのが正しい事なんだ、とちゃんと話の中で示してくれたこと。この作品の主人公であるソーマは、悪魔憑きとして世間からは冷たい目で見られ続ける存在である。悪魔憑きの力を使って人を助けても、決して感謝されないし、それどころか恐れられ追われる存在である。一巻の大陸鉄道を悪魔の一群が襲った時、ただソーマに守られるだけではなく、ピンチになったソーマを身を張って助けてくれた善良で勇気のある乗客たちが、ソーマの肩を叩いて彼の活躍を讃えてくれた気の良い人々が、ソーマが悪魔憑きと知った途端、掌を返したように態度を変えてしまったのは、読んでても辛かったんですよね。本当にいい人達だったから尚更に。
ソーマは、見返りを求めるような性格でもないし、いちいち傷ついたりするような繊細な心の持ち主でもなかったけれど、やっぱりこういう態度取られるのは辛かったと思うし、良いことをしたのに褒められもせず、それどころか石を投げられ、憎まれるというのは、たとえ現実がそうなんだとしても、そういうもんだ、と受け入れて認めてしまうのは、絶対違うと思ってたんですよ。
だからこそ、ファムが色々と落ち込むソーマに対して、君が落ち込んでいるのは見当違いで、良いことをしたのだからと褒めてくれて、助けてくれた事を感謝してくれて、彼を肯定してくれたのは、なんだかとっても嬉しかった。そして、そういうのをちゃんと強く主張してくれる子をヒロインとして出してくれるのが嬉しかった。
こういうのって、意外と大事な事なんだよなあ。

それにしても、天使憑きの兄ちゃん、あれこれあって、真実が明らかになった途端に二人だけのラブラブ時空を構築してしまったのには参った(笑 いいんだけど、いいんだけど。ハッピーエンドに優るモノなし。

1巻感想