神話殺しの虚幻騎士 (角川スニーカー文庫)

【神話殺しの虚幻騎士(フェイクマスター)】 八薙玉造/有坂りこ 角川スニーカー文庫

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神々に故郷を滅ぼされ、その追っ手から逃亡するクラウスと姉のリンデは旅の途中、氷の棺に閉じ込められた銀髪の少女と出会う。それはかつて神々と敵対し、封印されていた魔狼マナだった。
「人間、貴様喰らってやろうか」
封印を解き放つも、殺意を向けてくるマナに対しクラウスは悠然と言い放つ。
「お前にとって俺が必要だと教えてやる…!」
クラウスは命がけの交渉で伝説の魔狼を仲間に引き込もうとするのだが―!?
おおっ、ジローさんだ! と咄嗟に思ってしまった赤コートに赤帽子の主人公の姿。富士見ファンタジア文庫はあざの耕平さんの【BBB】のジローさんの格好もこんなだったのだけれど、やっぱり印象強く残ってるんだなあ。しかし、この赤コートって元ネタなんかあるんだろうか。こうしてみると、赤揃えもなかなか格好良く見えるのですが、着ている当人であるクラウスが、若干どころではなく気持ち悪いので、色々と台無しである。
お姉ちゃんが好きすぎて気持ち悪い主人公とか、大丈夫じゃありませんよ?
しかしこれ、世界観がまた独特なんですよね。典型的な中世型ファンタジー世界かと思いきや、そうではなくて神代の時代の延長線上であると思しき、そう言うなれば「ラグナレク・アフター」?
北欧神話において、神々の黄昏と呼ばれる最後の神々の戦いは、殆どの神が巨人たちと相打ちになって果てているはずであり、本作においてもその神話は残っている……にも関わらず、なぜかラグナレクのあとにも関わらず生き残っている神々。まるで、巨人たちとの最後の闘争に完全勝利したかのように、死んだ神々が顕現している世界。それでいて、異様ないびつさがそこかしこにこびりついているのである。まるで、一度終わった歴史を無理やり歪めて続けているようなイビツさが。
おそらく、その歪みを正し、今のこの狂った世界の秘密を穿つ要となるのが、神の巫女であるリンデであり、それこそがオーディンたちが彼女を執拗に狙い続ける理由なのでしょうが……。
その強大さはそのままに、どこか常軌を逸して妄執にとりつかれたようなオーディンたち神々。神としての威厳、秩序を見失い、切羽詰まった感すらある彼らがはびこる世界は、明らかに変なんですよね。まるでパースが壊れたようなちぐはぐさすら感じるのです。虚構とはまた違う、詐術によって無理やり嵌めこまれたようなアンバランスな世界観。
そんな中で、神々と敵対し封印されていた魔狼マナ。月喰らう狼と呼ばれるマーナガルムだけが、妹を討ち取られた復讐の一念で牙を剥いている姿が、唯一まともに見える不思議さである。歪められた世界のルールに、彼女が関与していない、或いは関わっていないからこそ、なのでしょうけれど。
しかし、マーナガルムとはまたマイナーなところをついてきたなあ。魔犬ガルムと姉妹だとか、フェンリルと父娘だとかいうのは、確かにフィクションなんだけれど、関連性としてはありか。マーナガルムだけだと、知名度が……。

さて、妹に見えるちいちゃなお姉ちゃんが好きすぎて、周りのヒトから人間魔獣神々問わず気持ち悪いと評されるところの主人公クラウスは、人の身で人外の力を振るえる、なんてことはなく、ただただヒトの悪知恵、詐術、手妻の類を駆使して相手の認識をだまくらかし、言葉巧みに誘導して、神だろうと戦乙女だろうと思うとおりに陥れる、という技術の使い手のはずなんだけれど、意外と真っ向勝負が多いよね、クラウスって。むしろ、他のシリーズの主人公の方が絡め手ばかり仕掛けてくる印象で、クラウスはかなり身体を張り、敵の前面に出て切った張ったを続けてるんですね。クラウス、気持ち悪いけれど基本的に善人だからなあ。もっと小悪党で性悪で性根がひん曲がっているヒトの方が小細工が冴え渡りそうなんだけれど、クラウスわりと正直者な気がする。気持ち悪いけれど。
お陰で、かなりの勢いで怪我が手に負えないレベルに跳ね上がってる気がする。今のところ味方してくれているマナだけれど、まだ心の底から仲間になったというわけじゃないしなあ。本当に言葉通り、利害関係の一致、という部分に寄っている模様。それと、案外とお人好しなのか、マナが。
もうちょいと、ヒロインとして映えてきたら、この歪んだ世界の秘密とあわせて面白さが加速していくんだろうけれど、今のところ最大の売りが、お姉ちゃん好きすぎてキモい、というあたりなのが、なんともはや(笑

八薙玉造作品感想