演奏しない軽音部と4枚のCD (ハヤカワ文庫 JA タ 13-1)

【演奏しない軽音部と4枚のCD】 高木敦史 ハヤカワ文庫JA

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高校一年の秋、楡未來は亡き叔母が“4枚同時再生が必要な”CDを遺した意味を探るため、軽音部の部室を訪れた。そこで待っていたのは、演奏しない「聴く専門」部員・塔山雪文。挙動不審で怖がりだけど、音楽にはものすごく詳しい塔山の力をかりて、未來は叔母の真意を追う。架空言語で歌う曲を題材に書かれた小説の盗作騒動、壊されたギターと早朝の騒音との関係など、学校で起こる事件を音楽の知識で解き明かす全4篇。
むむむむ……誰だよ、この人にメイド様なんたらという訳わからん全然筆に合ってないのを書かせたの。これ読むと、この人が【“菜々子さん”】シリーズだけの人じゃなかったのがよく分かる。全然、話の艶が違うもの。少なくとも、あのメイド様みたいな作品が全く方向性として合っていなかったのは、これ読んだら一目瞭然ですわ。どうしてハヤカワ文庫まで流れてくることになったのかはわかりませんけれど、こっちの方向でどんどん出してくれるなら大歓迎ですよ。
というわけで、本作は日常の中で起こった些細な事件や謎を、演奏しない「聴く専門」部員・塔山雪文と文芸部の「読む専門」の楡未来が、洋楽の楽曲に絡めて紐解いていく日常ミステリーである。探偵役の塔山くんだけれど、この手の探偵役が才気迸る、と言わずとも往々にして尖った性格をしている人物が多いのに比べると、……なんというか、アホっぽい(笑
肝心の謎解きシーンを見ていても、あんまりキレ者っぽさを感じさせないんですよね。確かに、細かいところまで気がついてるし、幾つかの材料から真実を組み立てていく頭脳の回転力は大したものなんだけれど、導き出した「答え」のカードの切り方が、いわゆる「探偵」のそれとはちょっと外れていて、凡俗じみてるんですね。ぶっちゃけ、演出に長けているわけでも、構成力に長けているわけでも、幕引きまで上手く考慮しているわけでもない。ごくごく普通の高校生の男の子の感性で「答え」のカードを切ってくるわけです。それが、すごく等身大感が出ていて、大仰さがなくていいんですよね。これぞ日常ミステリー、というべきか。塔山くん自身、成績も中の下くらいの、友達とバカやってるのが普通のヘタレで大人げない男子高校生、って感じの子ですしねえ。
まあそれ以上に、ヒロインの未来がアホの子の方向に個性が強いのが、色々と引き立ててる気がします。お嬢さん、その粗忽さでクールビューティーを名乗るのは少々無理があるというものだぜw
第一話を読んだときは、彼女が秘めていた未来の夢の形に、なかなか意識の高いお嬢さんなんだなあ、と感心していたのですが、第二話で彼女が見せた、というか露呈してしまったあまりの「おっちょこちょい」なありさまに、思わずオイオイと爆笑してしまいましたがな。その性格で、一話で話してくれたみたいな、なりたいものになってしまったら、むしろ大変な事になってしまうんじゃないだろうか。世間様に多大な迷惑が掛かりそうなんですけれど。
逆境にもメゲないし、根性あるし、情の厚い良いお嬢さんなんですが、如何せんブレーキがついていないというか、制限速度なにそれ? と、暴走前提みたいな性格と相まって、ブレーキ役が欲しいヒロインなんですけれど、塔山くんだと抵抗してもそのまま引きずられていくことしばしばなので、ストッパーとしては役立たなさそうだしなあ(苦笑
でも、彼女はとても優しくて、その優しさは強い優しさです。「無限大の幻覚」で彼女が選んだ選択は、自分が傷つくにも関わらず、塔山くんが後で傷ついたら嫌だから、とあの選択が出来るというのは、結構とてつもない事だと思うんですよね。いやいや、おっちょこちょいの粗忽者ですけれど、大した女性ですよ、フューチャー。
うん、なんだかんだとモテるのもわかるわぁ。むしろ、これは塔山くんの方が離しちゃいけない縁でしょうなあ。
ちなみに、洋楽については浅学もいいところなので、各話で取り上げられる曲はさっぱり知らず。でも、曲がわからなくても十分面白かったので問題なし。知ってたら、さらに楽しめたのかもしれませんけれど。
できれば、ちょこっとでもシリーズ化してくれたら嬉しいなあ、と思える一作でした。もうしばらく、この未来と塔山くんの軽妙なコンビは眺めていたい楽しい二人でした。

高木敦史作品感想