ストレンジムーン (3) 夢達が眠る宝石箱 (電撃文庫)

【ストレンジムーン 3.夢達が眠る宝石箱】 渡瀬草一郎/桑島黎音 電撃文庫

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加熱するキャラバンと皇帝一派の戦いに、翻弄されつつも抗う玲音と記録者――シリーズ完結!

"金の記憶の彫金師"リコルドリクと記録者を巡って、対立するキャラバンと皇帝一派――その狭間で戸惑いつつも、月代玲音と仲間達は事態の収拾を目指し奔走する。
騒動の中、"女王"の香恋により囚われた玲音は、皇帝一派の拠点において遂にリコルドリクと遭遇するが、不可視のその神は既にモニカの掌中にあった。
進退窮まった末、彼は"将軍"周皓月にある交渉を持ち掛けるが……
宝石箱より解き放たれた異能者達の騒乱劇、その結末は――!?
果たして、あと残り1巻でこの事態、収拾がつくんだろうか、とずいぶんと不安に思っていたのですが……つきましたよ、収拾!!
いやあもう急展開の連続で息つくヒマ無し。実際、当事者である玲音たちや、皇帝一派も一度落ち着いて状況を整理する、という余裕もなかったんじゃないだろうか。作中時間内でも、殆ど間断なく事態が二転三転していて日にちもろくに経過していなかったはずですし。
とまあ、終わってから振り返ってみるとさながらジェットコースター展開なのですが、だからといって無理して巻いて巻いてしているような印象がなかったのはさすがだなあ、と唸ってしまいます。あまりに目まぐるしかったりすると気分的に置いて行かれたり、忙しなさに話を畳もうとしているような意図を感じてしまって冷めてしまったり、という危ういところが一気呵成の急展開で事件を終わらすケースには多々見受けられるものなんですが、本作については見事に波に乗せきってるんですよね。
ただでさえキャラクターが多いにも関わらず、そのあたりの描写のバランスも絶妙でしたし。……まあ、終わってから、あれ?そういえばこのキャラあんまり出番がなかったぞ!? と愕然とさせられたりもしたのですが、読み終わるまで意識させないあたりがどうしてどうして(苦笑
こういう構成力や物語全体のリズム感、キャラクターの躍動感、勿体ぶらずにどんどん物事や心理面を動かしていく動性は、【パラサイトムーン】の頃と比べても目をみはるほど変わってきているのが、同じ世界観の事実上の続編だからこそ、如実に伝わってくるものがあります。
【パラサイトムーン】の頃のある種の仄暗いじっとりした感覚がいい、という向きもあるかもしれませんけれど、その意味では続編とはいえ本作はだいぶ根本の色が違ったからなあ。そもそもからして、主人公の玲音とメインヒロインのクレアからして、揃ってポンコツというなかなか肩の力が抜けるカップルでしたし。
うん、この二人は近年稀に見るポンコツカップルだった!
普通なら、どちらか片方はしっかりしているものなのですが、こいつらは二人共すっとこどっこいなところがふんだんに露呈するお間抜けさんでしたし。まあ、玲音の方は軽々として浮ついているように見えて、土壇場の度胸といい、意外に卒がなかったりと、最終的に何とかしてくれるという安心感があって、決して緩いだけのキャラじゃありませんでしたけれど。
パラサイトムーンから引き続き登場したキャラクターたちも、かつての陰鬱な雰囲気を引きずらずに、大人になって落ち着きながらもどこか愛嬌みたいなものが加わった気がします。カップル、というか夫婦になってる連中は軒並み血糖値があがりそうな糖分過多のラブラブになってて、いささか参りましたけれどw
爆発しろ! とは、散々苦労しまくった挙句にようやく結ばれた経緯を知っているだけに言えたもんじゃないのですが、ほんともうちょっと周りの目とか気にしましょうね!?
斯く言うラブラブ度では、クレアと玲音のそれも大変な代物だったのですが。これで、当人同士は相手が自分に好意を向けているなんてまるで思ってなくて、一方通行の片思いで相手を慮って遠慮しがちだった、というのだから、いっそホラーである。

「――今までは遠慮したり怖気づいたりしてたけど、これからはちょっと本気で頑張ってみようって思って」
 香恋が頬を引きつらせた。
「……遠慮……? 怖じ気づいてた……? アレで……?」

 ヤンデレをすらビビらせるクレアと玲音の普段の意識してないイチャイチャっぷりたるやw

 今回は意識を上書きされるという他に、感情の箍をいささか外す要素のあった宝石箱のお陰で、女性キャラの少なくない数が「ヤンデレ」の傾向を示してしまう、というちょっと恐ろしい有り様になってた本作ですけれど、なんとか悪い意味で血を見る修羅場な展開には至らなかったのは、良かったのか何なのか。香恋がいったいどうなるか、とかなりびくついていたのですが、皓月に夢中なモニカが予想外に大暴走をはじめたせいで、大方そちらに持って行かれた気がします。案の定、玲音と皓月にシンパシーが生じてしまったお陰で、モニカが完全にヒスっちゃいましたし。個人的には、皓月がもっと絆される展開を見てみたかったのですが、そうなるとクレアとの間で洒落にならない血塗れの展開が起こりかねなかったので、これは仕方なかったのかなあ。
香恋も、どうやら異性愛というよりも過剰な家族愛、依存の方に寄ったみたいで何とか収拾ついたみたいですし。そもそも、香恋にとって玲音は兄であり、父親代わりであり母親代わりすらもカバーしていながら、実際問題血が繋がっていないという、家族になりきれないという、依存に対して拠り所がない不安が募っていたところに、感情の箍が外れる展開が重なったことで、暴走が起こっていたようですし。

まあくろとらくんのあのセリフには大爆笑してしまいましたけれど。
「大切なことを忘れていた。……黒猫は……ヤンデレに……勝てない……ッ」

いつから次元を超えた統一法則になった、これw
しかし、中の人はそういうことでしたか。能力的なものと性格的なものがどちらの場合でもどうしてもそぐわないなあと首を傾げてたんですが、なるほど二人一組で動かしてたのね。さすがに前作の関連なので、記憶とのすり合わせが出来なくて困ってたんだけれど、当人が出てくれてなんとか焦点あいました。あったけどさ、酔っぱらいもいいところだよね、これw

最終的にいったいどんな悲劇が待ってるかとジリジリしていたのですが、思ってたよりも上手いこと収拾つきましたよね。どうもキャラバンの中堅クラスに陰険極まる連中が揃っていたので、かなり血を見る展開が待っているのかと思っていましたが、思いの外派閥のボスのカーマインと山ノ内の御大が前に出てきてくれた上に、想像以上にふたりとも良心的な人物だったんですよね。キャラバン自体、色々と黒かったし、その大派閥のボスということでもっと黒くて悪辣な人を想像してたんだけれど、夢路さんの人選は大したものだったわけだ。
ともかくヤバかったのが早矢多さん。一番精神的に大人で良心的で献身的で、皆の板挟みになって苦労しまくる、という一番割りを食う立場にたってたものだから、完全に死亡フラグの只中だったんですよね。もうどうなるかとハラハラしっぱなしだった上に、クライマックスのアレですよ。
もう心臓に悪かった! 本当にあかんかったですわ!!
しかし、静枝さんの動機ってそういう事だったのですね。彼女だけ、皇帝の意識を上書きされたとはいえ、反応がおかしかったし、それにしてはキャラバンへの敵意の質が、過去の経緯からの復讐心というにはなんか違ったので、なんでキャラバンと敵対しようとしているのか意図が読めなかったのですが……。この人もある意味情熱的だったんだなあ。
いやもう、報われてよかったですよ。

なんか、満月のフェルディナンがけったいな登場と退場の仕方をした上に、事件の収拾自体はついたものの、まだ行方不明の石もあり、記録者も玲音の中に残ったまま、という微妙に伏線を残した終わり方で、どうやらこの迷宮神群の世界観での続きもまだあるようですし、いやあこのシリーズは終わったけれど、大きな枠では終わらなくてよかった良かった。
個人的には、早矢多さんの部下たちをもうちょっと掘り下げた形で見たかったんですけどね。あの時緒さんとかキャラ立ちまくってたわりに出番が少なくて、ちと残念でしたし。
今度はもっと出番確保して活躍して欲しいのう。と、続きを待てるのはホント素晴らしいことです。

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