男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。 (3) ―Time to Pray― (電撃文庫)

【男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。 3.―Time to Pray―】 時雨沢恵一/黒星紅白 電撃文庫

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彼女の冷たい手が、とても、気持ちいい。
どうして? 僕は、このときまでを、思い出す。

女子高校生で新人声優をしていますが、年上のクラスメイトで売れっ子ライトノベル作家の男子の首を締めています。それが、今の私です。
男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。それが今の僕だ。
女子高校生でライトノベル好きを自負しているけれど、年上のクラスメイトが朗読した、『ヴァイス・ヴァーサ』のWeb小説版が気になっています。それが今の私です。

高校生作家と新人声優の秘密の関係に『ヴァイス・ヴァーサ』ファンの少女が乱入し、ラブコメモードに急加速!? さらに、再び"首絞め"の悲劇が――!?
時雨沢恵一×黒星紅白の新シリーズ第3弾が登場!
最初の上下巻がほぼライトノベル作家についてのハウトゥー本であり、物語としては殆ど能動性が皆無に近かったのに対して、この三巻からはライトノベル作家のハウトゥーはバッサリ比重を落として、高校生作家と女子高生声優の一筋縄ではいかない青春物語として俄然動性を帯びてまいりました。いや、殆ど別物と言っていいくらい作品の趣旨が変わったんじゃありません、これ?
そりゃあさ、本気で殺されかけたにも関わらず、あの何事もなかったかのような彼の対応。その後もまるで気にしておらず、殺人未遂の事実があったことも忘れたかのような振る舞いには、違和感はありましたよ。似鳥を庇ってのこと、と最初はそれで納得していましたけれど、それならそれで何らかの似鳥への熱量というものが籠もりますし、彼女への対応についてももうちょっと悩んだり、距離感の測り方について戸惑ったりする面があって然るべきだったのに、その辺りがまったく無かったわけです。これは、似鳥に気を使っているのかな、とも思ったのですけれど……。
実際、最初のうちは似鳥は先生の何事もなかったかのような態度に救われて、元の電車の中で相席していた頃の関係に戻れたのですけれど、そこから彼女は行き詰まってしまうのです。自分が彼の首を絞めて殺そうとしたことを、どう彼に謝るべきか。彼の自然な態度が、ここで逆に壁になって彼女に踏み込むことへの恐れを抱かせることになるのですが……その事がむしろ似鳥が彼という人物を、あこがれの作家としてではなく一人の人間としての、そこに居る少年としての彼として深く観察し、考察することへとつながっていくのだから面白い。
似鳥は、声優と原作者としての関係から、同級生という関係から、コアなファンとしての視点から、時に仕事を介した距離感で、時に同世代故のコミュニケーションから、そして『ヴァイス・ヴァーサ』という彼が書いた作品を通して、様々な多角的な側面から、この「彼」という存在を掘り起こし、入り込んでいくわけです。
それは夢心地の期待であり、痛切な罪悪感であり、好奇心であり、興味であり、自省であり、関心であり、切迫感であり、複雑に混合した感情が、彼の人となりを求めていく。元々あった信仰に近い情熱は、一時殺意にまで昇華されるほどになってしまったのだけれど、こうして彼という人を求めていくことで、それはごくごく親しい男性としての彼への熱へと色を帯びていっているんですよね。そして、彼の「異質」さに直面することで似鳥絵里が感じたものはなんだったのか。
いずれにしても、この一件を通じて似鳥には、ピンと一本の芯が背筋に通ったような気がします。ある意味、なりふり構わぬ真剣さが突き通ったような……。
彼女が得た恋心は、果たしてふわふわとした砂糖菓子のようなものとは裏腹の、一本の剣のようなものでした。凛々しくも勇ましく、可憐にして真摯一途な祈りの形をした解き放つ一振りとして。
「Time to pray」、さり気なく三巻からサブタイトル、変わってます。

時雨沢恵一作品感想