不戦無敵の影殺師 2 (ガガガ文庫)

【不戦無敵の影殺師(ヴァージンナイフ) 2】 森田季節/にぃと ガガガ文庫

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俺たちが、本当に戦うべき「敵」は--?

――俺たちは、何と、なんのために戦えばいいのか――
俺、冬川朱雀と相棒の少女、小手毬はこの世に必要とされていない異能力者だった。「異能力制限法」により、現代、異能力の無断使用は厳禁され、異能力者はすべて社会から管理されている社会。強さには自信があるが、戦う機会が与えられなかった俺たちだったが、ガチのトーナメント大会で優勝したことをきっかけに少しは仕事が舞い込むようになった。
しかし、それと金を稼ぐことは別問題で……。
理不尽な世の中の反応、嫉妬、不協和音、新たなる敵の影……俺と小手毬を待ち受けていたのは、異能力者の光と闇という現実だった。
――俺たちは正義のヒーローじゃない。どこにも、戦うべき敵なんていないのかもしれない。それでも、戦うことを、異能力者をやめることはできない――。
「現実」の異能力者たちが交錯する、異能力者苦闘アクション!
誰も彼もが思い通りにならないままならない人生を送っている。
ようやくトーナメント優勝をきっかけに仕事が増えてきた朱雀だけれど、それで成功者の仲間入りをしたわけではなく、仕事が増えたわりに収入は上がらないし、相棒の小手毬との仕事上のすれ違いは増えていく。同業者からは何故か嫉妬され陰口を叩かれ、折角手に入れたゴールデンの出演番組は空回りばかり。
ほんと、人生ままならない。
一方で、芸能界で成功者として売れまくっている人も、それはそれで思う通りの人生を送っているわけではなく、憤懣やるかたないものを抱え込んでいる。芸能界でやっていけず、異能者を引退し一般社会で働いているかつての同輩も、また忸怩たる思いを掻きむしりながら、今もなお芸能界にしがみついている朱雀を仰ぎ見ていた。あの業界トップをひた走る滝ヶ峰だとて何もかも思い描いた通りの理想の人生を歩んでいるわけではない。それどころか、汚濁を飲み込みながらむしろ歯を食いしばって理想を打ち立てようと無様にあがいている真っ最中だ。その為に、多くの大切なものを溝に捨てている。脳天気に見えるみぞれだって、決して純真無垢で居られるわけじゃない。
誰も彼もが、ままならなさに喘ぎ、その営業用のスマイルの下に陰鬱な素顔を押し殺しているのだ。
もうこっちのタイトルも【人生】にしてもいいんじゃないですか?という勢いである。

とにかく、内容が生々しい。異能バトルものに見せかけた芸能界残酷物語なんだけれど、芸人という芸能界を本職としている立場の人たちじゃなくて、あくまで異能を売りにして芸能界に乗り込んでいる彼ら異能者芸能人たちが主人公というのがポイントなのでしょう。芸人は、芸能界で売れる事こそが本意であり目標そのものなんでしょうけれど、彼ら異能者芸能人たちは本来なら違う場面で使うべき能力を切り売りして、それで芸能界をわたっている。引退したスポーツ選手や声の仕事が本職の声優、作家や弁護士、大学の教授なんかが、慣れないバラエティやトーク番組で自分を切り売りしているようなものだろうか。
いや、戻れる場所がある彼らと違って、異能者たちは戻れる場所がない。異能者が異能者として能力を振るえる場所は、表の世界ではもはや芸能界だけであり、そこにしがみつくしか自分の異能を活かす場面は存在しない。しかし、本来と違う使い方をすることで芸能界で地位を築いていくということは、芸能人としては成功でありながらも、異能者としてはむしろ堕落しているような心地に陥ってしまう。そんな二律背反を抱えながら、売れる異能者も売れない異能者も儘ならない現実に憂鬱を抱えているのだ。
滝ヶ峰が異能者たちの行く末に危惧を抱き、自分たちの社会における地位を揺るぎないものにしようと、泥をすすりながら頑張っているのも、このあたりが原因なんだろう。成功してもしなくても、これだけの鬱屈を異能者が抱えている以上、遠からず暴走を始める異能者が雪崩を打ち出しても仕方がない。
実際として、裏社会に身を投じて、強さを基準とした異能者本来の生き方に殉じようという人の道を外れたものたちが、少なからず現れはじめているのだから。
誰だって、本分を尽くしたい。そんな中で、異能者本来の基準である強さを売りにしたまま、芸能界で一つの成功を得た朱雀の存在は、様々な方面に衝撃を与えたに違いない。その当事者である彼はというと、トーク力に優れた川内に憧れ、自分よりも注目を浴びて売れていく小手毬に焦燥を募らせるという、一発屋芸人特有のスパイラルにハマり込んでいるのだけれど。
朱雀にとって幸いだったのは、彼には小手毬という全てを共有できる存在がいた事なのでしょう。一時はその絆を疑ったものの、異能者としても芸能人としても、そして一人の男としても、得難きパートナーとして傍らに居てくれる小手毬の存在は、さて支えなのか救いなのか、はたまた許しなのか。一緒に泥沼の底へでも沈んでくれる相手というのは、よく出来た嫁というのは、もしかしたら男にとっては堕落なのかもしれないなあ。まあそれも、男次第の話なんでしょうけれど。

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