修理屋さん家の破壊神 (富士見ファンタジア文庫)

【修理屋さん家の破壊神】 朱門優/まろ 富士見ファンタジア文庫

Amazon

祇良堂ちず。弐地高校に通う記憶喪失の家出娘。そして…清楚な見た目とは裏腹に、図々しくて面倒くさがりな彼女が“うっかり”モノを壊してしまうと、なぜか世界の法則そのものが壊れてしまうのだった。世界を修理することができるのは、壊れた法則の「外」にいることができる少年・類だけで―。これは、苦労人の修理屋さんと可憐で俗っぽい破壊神(?)の騒がしい日常を綴った物語である。

やっぱり、朱門優さんはバトルものよりも、朱門優さんはこっちの日常の延長線上のちょっと不思議な非日常系統がよく似合う。
修理屋さん家の破壊神って、マッチポンプかよ!と目を剥いたものだけれど、実際には修理屋というのは商売じゃなくて、単に主人公が壊れたものを見ると直さずには居られない修理ジャンキー。ただ、ひきこもりの生徒会長アニャト先輩と、その妹であるユーとの関係を見るに、類が直したがるのはあくまで「物」が壊れた場合のみで、こと人間関係の修復については非常に慎重、或いは目を背けてなるべく触らないようにしている事が伺える。
そんな中で、物を壊すことで世界の法則すらも壊してしまうちずという少女の出現は、彼女の壊したものを修理することで壊れた世界の法則をも修復する能力を得てしまった類にとって、ターニングポイントとなってしまう。
類は終わりまで気づいていなかったようだけれど、ちずの壊す世界というのは常識そのものと言えるのだけれど、それは物理法則のたぐいではなく……他人との関係の在り方に拠るものなのです。
ちずが壊してしまったことで変化した世界とは、それ以前と他人との関係の在り方が変化してしまった世界。もっとも、その変化の大半はちずを中心とした奇妙奇天烈な変化であり、類はそれを物が壊れたように世界の一部が壊れてしまった、という認識で修復にあたっていたようだけれど……その認識では当てはまりきらない出来事が、副会長の一件を発端にして露呈していく事になるわけです。

果たして、自分の破壊行為を悪びれない、深刻に考えない、無責任に興味を抱かない、良きにはからえと放置して俗事に感ける祇良堂ちずという女の子は、確かにどこか浮世離れして俗っぽい八百万の神さまっぽい存在だ。状況を引っ掻き回し物事の中心に居ながら、しかしその後の展開を類に丸投げして干渉してこない彼女の存在は、一人の少女としてよりも、舞台装置としての神様として機能していると言ってイイ。実のところ、物語に深く干渉してくるという意味では、外側にいて入り込んでこないはずのアニャト先輩の方が、グイグイと物語の芯や類の内面に踏み込んできている。
一方で、一個のキャラクターとしてなら、ちずは濃密なくらいの存在感を示しているのだから、何とも面白い。
では、ヒロインとしては?
結局それは、ちずという舞台装置が一人の少女の座まで引きずり降ろされることで、ようやくスタートするものなんですね。これは、つまり類が遠ざけていた、他人との関係への干渉を行うことを自覚的に行う覚悟を持つことで、ようやくはじまる関係だったわけです。
物を修理することだけに目を向けていた間は、ちずはベタベタとひっついてくるわりに、本当の意味で類と人間としての関係を結ぼうとはしていませんでした。彼女が物を壊して世界の法則を歪めた時だけ、えらく妙な形で類と関係したいという願望が現出していたのでしょう。
その願望の現出は、ちずだけに留まらず、それ故に類が自身の至らなさを突きつけられるはめになるのですが。

「特別」な他人との関係が「世界」を形作る。そんな「世界」を壊したり、直したり、なんてことは実のところ当たり前に誰もが行っていることなのかもしれません。再生ではなく、あくまで修理、修繕であるところに、一度壊れたものは完全には元に戻らず、常に変化を伴っている、という意味も込められているのかもしれませんが。

朱門優作品感想