ケモノガリ 8 (ガガガ文庫)

【ケモノガリ 8】 東出祐一郎/品川宏樹 ガガガ文庫

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それでは、旅の終焉を始めよう。

才能は必ずしも発揮しなければいけないわけではない。

爆弾を作る天賦の才があったとしても。爆弾を作れば誰かが傷つくだろう。
人を殺す才能があったとしても。人を殺していいわけでもないはずだ。
なのに、僕は人殺しを選んだ。その時点で、誰が何と言おうと許されない。
罪は背負うと決めていた。その先に何が待っているかも理解していた。
それでも。ケモノを狩るためにケモノガリと成り果てた。
悪を狩るために、悪を許容することを選んだのだ。
正義ではない。正義を掲げるほどに、己の手が綺麗なはずはない。
だが全くもって躊躇いはない。あるのは幾許かの恐怖と高揚感。
様々な苦難を乗り越え、結末が、やっと見えてきた。
決着をつけよう、同じ才を持ちながら異なる道を選んだ者よ。
赤神楼樹は、最後の戦いに挑む。

アスライアとの最終決戦を控えた楼樹は家族の記憶を、友人の記憶を忘れ、人間らしさを捨てていく。そうやって殺すことだけに特化した存在になりながら、楼樹は決死の戦いへと歩を進める――。

殺人の才能をもつ少年の物語、ここに終幕! 興奮必死の終焉を見よ!!
これ、帯の鋼屋ジン氏のアオリ文が素晴らしいですね。
旅とは行きて帰りし物語である。そう。生きて還るのだ。

個人的にはさ、悲劇や虚しく寂寥とした結末を予定調和として整えている物語にこそ、ハッピーエンドを期待したいんですよね。絶望からの大逆転には燃えたぎるような力強い興奮を与えられるけれど、悲しみや嘆きからの大逆転には、救われたような気持ちにさせれるんですよ。痛みの向こうに見出す美しさも良いけれど、私は痛みを癒してくれる優しい物語がやっぱり好きなんだと思います。
その意味では、この物語はこれだけ殺し殺して殺し尽くすお話にも関わらず、とてもやさしい話だったように思います。例えばイヌガミとその妹にしても、アストライアにしても、終わることで癒やされた悲しい者たちですけれど、それも彼らと共に戦い、或いは刃を交えた相手であるロキが救われたからこそ、彼らの終わりにも報いがあったと思えるのです。たとえ、ロキに彼らとの記憶が残されていないとしても、彼の存在自身が、生存し、ケモノとしてではなく人としてこの後も生きていく事が、その証明となっていく。あやなという観測者が、その証人となってくれる。ちゃんと、遺して先へと持って行ってくれる。それだけで、十分に優しさが込められた物語だったんじゃないでしょうか。

正直、「悲哀」の噛ませっぷりが理想的すぎたので、残るクラブの「虚無」とアストライアとの決着が果たしてどこまで物語としてもエンターテイメントとしても意味のあるものになるのか不安だったのですが、「虚無」というクラブそのものの業との対決とその決着は、思いの外濁すことなく徹底してその狂った理念を踏みにじるものになってくれてスッキリしましたし、それ以上にアストライアのキャラクターがこの最後の局面にてここまで引き立つとは思っていなかったので、望外に感慨深い結末になりました。
特にアストライアは、その名前の本当の意味といい、想像以上にロキと相似にして対照的なキャラクターだったんだなあ、と。彼が、あやなに対してあれほど不可解な態度をとっていたのも、なるほどと納得させられたわけです。同情や共感を呼ぶようなキャラではなかったですけれど、最後の最後でアストライアの事はなんだか無性に好きになってしまったなあ……。
そして、ここに来て本当の意味で重要な要となってきたあやな。本来なら、最初の段階から外側に排出される立場だった彼女が、最後まで食らいついてきた挙句に核心部分そのものに成り果ててみせたのは、いっそ感嘆すら覚える力強さでした。彼女が一切揺るがなかったことが、物語そのものも最後まで一本芯を通して揺るがなかった要因じゃないかと思うのです。まさにキープレイヤーでした。

それにしても、メイン格がこれだけ大暴れしている一方で、CIAの連中もちゃんとみんな目立っている事に歓喜w
最強のCIA工作員たちが、お約束通り全滅してしまうのではなく、ちゃんとしぶとく生き残ってみせてくれるあたり、最高じゃないですか。それだけじゃなく、老兵たちにグレタにもちゃんと見せ場があり、決着があった事も……。

シャーリーについては、知らなかったんですけれど、なんか他の作品と繋がりあるらしいですね。
東出さんがシナリオライターやった【エヴォリミット】というゲーム。
というわけで、俄然そちらにも興味が湧いてきました。エロゲーのたぐいはずいぶんと長くやってなかったんだけれど(時間の問題で)、ちょいと調べてみたら、メインの雫がかなりストライクなんですよね。合間にポツポツやってみるかなあ。

というわけで、始まった当初からは多分想像だにしなかった、帰らぬはずの旅路の果て。よくまあ、たどり着いてみせた、いや帰り着いてくれたと感謝すら抱いた優しいエンディングでした。生き残った人も死んだ人も殺された人も、総じてお疲れ様でした。。

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