焦焔の街の英雄少女 (MF文庫J)

【焦焔の街の英雄少女】 八薙玉造/中島艶爾 MF文庫J

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焼け落ちた品川の街、逃げまどう人々。別世界から侵入した剋獣――世界の敵に人々は脅かされていた。しかしこの世界には英雄がいる。世界を喰らう剋獣五帝と戦い、討ち果たす者。焔まとう英雄、烈火の剣皇・紅地杏だ。だが彼女には秘密があった。そのメンタルは豆腐で英雄然とした姿は演じているだけ。自分の台詞の恥ずかしさに赤面、後輩の相談に狼狽し半泣き。その真実を幼なじみ・黄塚光義だけが知っている。度重なる戦いでその身を、英雄であろうとすることでその心を、傷つかせていく杏。だが無力な光義ができることは、彼女の平穏な日常を守ってあげることだけで……。これは世界の運命に翻弄される、英雄の少女とその幼なじみの物語。
いやいや、全然豆腐メンタルじゃないよ! 臆病で内気で恥ずかしがり屋さんだからこそ、どれほど怖くても、大切なモノを守るために逃げずに戦おうとする姿は、勇気の塊なのである。
本当に豆腐メンタルだったら、折れて挫けて内に篭って自分で作った殻から出てこなくなっちゃいますよ。
それなのに、それどころか杏ちゃんは愚痴らないし、恨み事も言わないし、泣き言一つこぼさない。自分だけが、世界を守れると知っているから、その使命を全力で果たそうとしている。それが、家族や大好きな幼なじみを守る事に繋がっていると知っているから、笑って戦場へと走って行く。
それを、どうして豆腐メンタルなどと言えよう。
言えるのは彼だけである。黄塚光義その人だけの、特権であり義務である。
彼だけが、人類の英雄の持つ弱さを、肯定してあげられる。してあげなければならないと、固く心に誓っているのだ。英雄である彼女を手助けできない無力さを、どれほどこの少年が忸怩たる思いで、痛切に感じているかは、彼が本来有していた人格を封印し、性格を湾曲させ、ただ杏が穏やかで幸福な日常を送れるように、彼女の心の平穏を守るためそれだけにカスタマイズして接している事からも明らかだろう。
その彼女の日常を守る行為がむしろ、杏を余計に英雄として戦う事に駆り立てる理由となっているという矛盾を前にしても、彼にはもうそれ以上何も出来ないが故に。
だからこそ、光義が杏と同じ英雄として並び立つ、という展開は彼の心を掻き毟るような渇望が叶えられるという意味で、とても王道であり、鬱屈を吹き飛ばす痛快な話の流れであったんだけれど。問題はこれを書いているのが、八薙玉造という作家だった、という所に尽きるわけで……。

しかしまあ、この豆腐メンタルヒロインの杏ちゃんのキャワイイ事キャワイイ事。このネガティブとはベクトルの異なる弱々キャラは、相変わらず八薙さん上手いですよね。【獅子は働かず〜】のサロメお師様もそうだったけれど、この全力でイジメて光線を出してるヒロインは抜群ですね。残念ながら、この主人公はイジるどころか、過保護なくらいにフォローしまくってますけれど、うむ、杏の場合はイジメて光線よりもむしろ過保護にしないと死んじゃいそうな庇護欲を掻き立てるタイプなので、コチラのほうがいいのか。でも、本来の光義の性格ってむしろあんな繊細に接するタイプじゃないっぽいんですよね。光義が本性剥き出しにしてしまった時の、杏の半泣きの様子はナニカ良からぬ嗜好を刺激してしまい兼ねないアレな雰囲気が……w やめろよ、ついつい色々と想像しちゃうじゃないか。

ラストの展開は衝撃的でしたけれど、あの光義の杏への接し方、というか彼のずっと自分を歪めてしまっている生き方がかなり負荷がかかってそうな在り方だったので、こう…ガラっと二人の関係を変えてしまいかねないこの展開は、ちょいと舌なめずりな代物でした。次こそが楽しみ。

八薙玉造作品感想