VRMMOをカネの力で無双する2 (HJ文庫)

【VRMMOをカネの力で無双する 2】 鰤/牙/桑島黎音 HJ文庫

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イチローのギルド【Iris Brand】に錬金術師アイリスが復帰した。
イチローの周りに美少女が増え、気が気じゃないフェリシアに彼女との関係を尋ねられたイチローは、ゲームを始めてからの一週間を語り始める。
その内容とは、彼がトッププレイヤーに躍り出るまでの軌跡と、アイリスとの出会いに関連して引き起こされた事件(と課金)の数々で――。
今更といえば今更なんだけれど、別に御曹司ってVRMMOだから無双できてるんじゃなくて、現実世界でも十分無双してるんだよなあ。
いや、それどころか逆に現実世界よりもVRMMOの方が不自由であり、その不自由さを自由に楽しんでいる節がある。なぜ、イチローがアイリスが作った決してデザインが良いとはいえないブローチをあれほど気に入っているのかについて、彼が明確にその理由を明らかにする事は最後までなかったのだけれど、なにげにこれって御曹司のフリーダムすぎる精神性の根源というか拠り所を知る上での重要なポイントな気がする。それは、キングキリヒトへの御曹司の評価も相まって、御曹司の破天荒な言動の基準とも言うべきラインが、そこを追求していくと見えてくるんじゃないだろうか。
しかし、御曹司のキャラクターは本当に面白いなあ。上辺を飾らず、常に我を前に出して傲岸不遜に振舞っているにも関わらず、そこには嫌味というものが全く感じられない。なんか、これだけ無茶苦茶な言動、偉そうで自由すぎる振る舞いを見せているにも関わらず、全然ムカついたり、嫌な感じにならないんですよね。かといって滑稽さを笑うわけではないし、呆れてしまうわけでもない。残念さを下に見る、という感じでもないわけである。
つまり、上から見下ろされる感じも、逆に彼を下に見て嘲弄するような感じにもならないんですよね、御曹司のスタイルは。傍若無人だけれど、他人を不快にさせるようなタイプの理不尽さがないからかなあ。あくまで独立して他人を無理に左右しないんですよね。
だったら、イチロー氏に振り回されるアイリスはどうなんだ、という話になるんだけれど、彼女の場合は決断として御曹司に関わることを自分で選択しちゃったわけだしね。鍛冶師の彼については、自分ルールのすり合わせを行わずに勝手に食って掛かったのが原因だからなあ。ちゃんと親方の方は会話というツールによって、そのあたりの確認をやってたのですからね。まあ、その手の労力を自分からは基本費やさない御曹司は、だから傍若無人と言われても仕方ないんだろうけれど。

ともあれ、一切ブレずに思うがままに突き進んでいくイチロー氏に対して、夢を叶えるための場に立ちながらそこで挫折感に苛まれ、現実逃避気味にゲームに逃げ込みながらもそこで未練がましくデザイナーとしての生き方にもたれかかっていたアイリス。彼女の迷い、屈折、未練や挫折感というものを御曹司の生き方と対比して単に弱いもの、克服スべきものとして追求するのではなく、追い立てるようにシンプルに「やるかやらないか」というところに追い詰めていくスタイルは面白かったなあ。御曹司との出会いは、どうあれアイリスにとって立ち止まってしまった自分をもう一度走らせるためのチャンスだったわけである。その先に栄光があるかはわからない。御曹司は評価してくれているけれど、実のところその評価は彼個人のうちに限定されるもので、世間的には凡庸で価値のないデザインに過ぎず、その才能を御曹司が愛してくれているわけでもない。だから、成功が約束されているわけでもない。それでも、やるかやらないか。夢を諦めるか、縋るんじゃなくて食い下がるかを前にした時、自分の作品が評価される喜びに引きずられ、走りだしてしまったアイリスの、みっともないくらいバタバタとして、御曹司に引きずられてひっくり返りそうになってる姿は、何とも無様で……愛おしい。
前回の何もないが故に突き詰め、極めていったキングキリトの空虚さに足場を与えたことといい、イチロー氏の我が道を往くスタイルは、その通り過ぎたあとに色んな物を残していくんだなあ。これが影響力というやつであり、カリスマとも言うものか。

この後、アイリス女史はずいぶんと迷走というか、変な道へひた走っていくみたいだけれど、今のへっぽこな彼女からはいまいち先行きが見えないので、果たしてどんな風にあのへっぴり腰が変貌していくのか、何とも楽しみである。きっと、御曹司は最初から最後まで変わるとは思えないので、その分周りの変化に期待してしまいますね、これ。

1巻感想