監獄学校にて門番を (電撃文庫)

【監獄学校にて門番を】 古宮九時/やすも 電撃文庫

Amazon

監獄学校。そこは、国が認めた超危険人物のみを集め、矯正されるまで永久に出ることを許さない最凶最悪の学校。就職活動99連敗中、長年地下に引きこもる青年・クレトのもとに突如届いたのは、その監獄学校の門番への採用通知だった。「ようこそ、監獄学校に。ここがあなたの墓場です。…多分ね」成績優秀な“指輪生”の少女・ジリアの指導のもと、門番の仕事を始めるクレト。しかし、古人・獣人・竜人・巨人・羽人、多種多様な種族が集められた学校は、まさに無法地帯で―。そして次第にクレトは、学校の裏に隠された国をも脅かす“闇”を知ることとなる。第20回電撃小説大賞、最終選考作。

no-seen flower】というサイトにて執筆活動をしてらっしゃった作家さんのデビュー作品。この人の描く物語、綴る言葉から生まれる空気がすごく好きでねえ、ついつい寝る時間も忘れて読み耽ったものです。
でも、正直言いまして出だしから後半にかけて、本来のこの方の描き方からするとかなり語り口がぎこちない感じがしました。不思議とあるんですよね、ウェブ上で長い間バリバリやってた人がデビュー作品だと、まるで緊張してガチガチになってるみたいに、綴られる言葉が固くなってしまったり、慣れない流行りのスタイルに戸惑ったりした感じになったようなのが。
でも、まるで別人のお話のようになってしまっているのかというと、そんな事はなく……。

言うなれば、もうそれは生きているとも言えない過去の残影。長い年月を経てなお存在し続けるそれは、過去の情景を宿し続ける影のようなもの。だから、同じ時、同じ時代、同じ世界の中に在りながら、それは区切られた透明な壁のようなもので隔てられ、違う区切りの中で残っている。見えていて、会話でき、触ることすら出来るのに、それは遠い時間の住人なのだ、遠い世界の住人なのだ。
さても、作者がウェブ上に書き残している全ての小説をまだ読んではいないのだけれど、少なからず物語の主要な登場人物にはそのような傾向があったように思う。そして重要なのは、その隔てられ、置き去りにされた、或いは置き去りにしてきた者達が、今と生きる人達と同じ時間の流れの中で生きることで、世界を生きる人達と同じ世界で交流することで、再び生誕する物語だったのだ。
そう捉えると、ぎこちなくもライトノベルらしさを妙に意識した作りになっているこの作品もまた、そこに帰結している作者らしい物語だと腑に落ちる。
彼は過去の残影であるがゆえに、かつての自分たちが、過去の自分達がもたらした今を知りたくて外を覗き見ることとした。そこに今という時代に生きる覚悟や意思があったようには見えない。ただ見たかったのだろう。ただ感じたかったのだろう。結果であり、行く末だった、今の時代を。
そう考えると、彼は主人公として描かれつつも主体ではないんですよね。あくまで隔てられた向こう側に居たままの彼は、力を及ぼすことは出来ても、時代や世界を動かすことは出来ない。それが出来るのは、今の時代、この世界に生きている住人なのですから。この作品において、その役割を担っているのは最後まで読み終えて、とりあえず二人。そして、その二人こそ、彼をコチラ側へと引きずり出すための主体のはず。
惜しむらくは、彼女たち二人はその存在を、過去を継承した上で今を生き、未来を紡いでいく者であるという存在を彼に知らしめるところまでは行ったものの、そこから先はまだ何も成し得ていない事なのです。
彼の魂は未だ過去に終わった彼の大切な人たちの中に埋もれたままで、今の彼は残影のようなものです。彼はこのままなら、そこで影のように世界を見守り続けるのでしょう。でも、それは今を生きているといえるのか。
ジリア・シィースとクレト・ダラスはまだ行き合ったばかり。彼女はまだ怒りすら抱いていない。自分が過去の面影の縁としてしか見られていないことを知りすらしていない。まだ、始まってすらいないのだ。
もし始まったとするならば、それは多分きっと、彼女が彼の腕を支えるように触れて、ぽんと叩いた時。そこからきっと、彼が再び誕生し、この世界で生きることを始めるための物語が始まったのだろう。
つまりはこの物語は、終わってようやく始まったのだ。概ねすべてが、プロローグだったと思えば、この食い足りなさも納得できる。迂遠ではあるが丁寧でもあり、ウェブ小説出身らしいとも思える。
いずれにせよ、ジリア嬢がもっと果敢に牽引をはじめなければ、なかなか全体的に動きにくい凝り固まりようだと思う、何しろクレト・ダラスにはもう必要以上に自分から動く理由がないものなあ。かの蒼き月の魔女を口説き落とした王子様ほどの無茶ぶりは望むべくもないけれど、ジリア嬢には期待しています。むしろ、最初に果敢に動き出すのはもう一人の方かもしれないけれど。
しかし、本当の黒幕については絶対、そっちの子だと思ってたんだけどなあ。いい意味で裏をかかれた。