【Amazon.co.jp限定】神楽剣舞のエアリアル 書き下ろし4PリーフレットSS付き (GA文庫)

【神楽剣舞のエアリアル】 千羽十訊/むつみまさと GA文庫

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地表がほぼなく、空に浮かんだ浮島が無数にある異世界メルバース。その世界には、様々なモノや人が落ちてきていた。日本から落ちてきた少年、雪人は、空に開く穴――ウイルドレンドから落ちてくるものを調査する学院に家族同然の少女、風夕とともに入学した。

別世界からきた人間は魔術が使えないのだが、雪人は元々"退魔士"だったがゆえ、魔術が使える特別な存在だった。学院の選抜調査団の試験で、雪人は魔術の翼を身にまとい、魔術で錬成した刀を振るい、戦う。
彼らの空の冒険は、やがて失われた英雄伝説へと近づく――。

GA文庫大賞《優秀賞》受賞作。
天空の下、魔術と剣戟が加速する異世界バトルファンタジー!
へぇ、これはまた変則的な構成の作品じゃないですか。通常行われるであろう、主人公の学院入学、ヒロインとの出会いと交流、力量を示して認められる、という第一巻の前半から中盤部分、場合によっては一冊丸々費やされるであろうプロセスを丸ごとスキップして、物語が終盤へと突入した段階でスタートしているのである。
これは美味しいところだけ摘み食いしている乱暴なやり方ではあるのだけれど、逆に言うと見所優先でついつい退屈に流し見してしまう部分を大胆に端折って、楽しめる部分を全体に敷き詰めているとも言えます。
勿論、準備段階を疎かにしてしまうことで登場人物への感情移入を失ってしまう危険性はあるんですが、本作はヒロイン含めて登場人物を極力絞っている上に、なにげにメイン二人のヒロイン、風夕とフランツィスカとのコミュニケーションは深度と頻度を欠かさないようにしているので、むしろ初対面の状態から始めるよりも関係の充実は実感できるかもしれません。ぶっちゃけ、ヒロインが折角の初対面から仲良くなっていくプロセスに大した魅力を感じさせないものが少なくありませんし、そうなると無駄な容量を費やしているとも言えちゃいます。
そりゃ、絆が生まれるまでの過程にこそ傑作足るに相応しい描写や展開がある作品もあるわけですし、そうあらんことを目指すべきなのですが。
個人的には、このバッサリとした大胆さは肯定したい。楽をしようという意思は感じられませんし、むしろエンターテイメントとしての充実をはかった、面白い部分をより密度濃く分量も割いて書きたかった、というのもあるんでしょうしね。当然、もし本作が続くのなら、同じ手は使えないのでリカバリーが大変なのですが、途中での雪人たちと二人のヒロイン、クロやタマたちの交流の様子を見ている限りでは、さほど苦労はしないんじゃないでしょうか。
ちょっと勿体無いかな、と思った所は主人公が折角元の世界では退魔士であり、この異世界とは法則の違う力を使える立場にあったにも関わらず、ゼロから威を轟かすある種の痛快展開もスキップ状態にあったところでしょうか。異世界召喚ものにおいては、元の世界から特殊能力の持ち主で、それを召喚された世界で生かしていく、というケースはまだ少数派ですしね。こうもハッキリと退魔士、なんてオカルトサイドの立場の人間が召喚されるのは特に。まあ、退魔士とは言ってもあんまり現実世界側の魔術体系とは関係ない術理のようですけれど。むしろ、剣術の方が凝ってたような。ラスボスの行動理念と対決ふくめて、十分楽しめましたけれど。
最初からラストバトルの勢いで、このあと物語が続くとしてこれ以上の大物を敵として出せるのか、というのが味方の大物っぷりも含めて微苦笑してしまうところではあるんですけれど。まあ、そんなのは話の作り方でなんとでもなるか。ともあれ、シンプルに面白かったです。だからこそ、次にも期待したい。