カーマリー地方教会特務課の事件簿 (3) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)

【カーマリー地方教会特務課の事件簿 3】 橘早月/中嶋敦子 ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ 

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オブザーたち特務課の面々は、カーマリー地方教会全体を震撼させた教会長殺害計画を未然に防いだものの、ラムド老師の暗殺も含めた、今回の一連の騒動は教派統一改革を目論んだチャスチル枢機卿の仕業だということが概ね判明した。チャスチルが若い頃過ごしたという北の町・エリブに今回の秘密があると確信したオブザーは、何故か複雑な表情を見せながら特務課のライツ、ジークフリートとともに、エリブに向かう…。『カーマリー』シリーズ第1部完結となる第3巻、いよいよ彼の秘密が明らかになる…!?

ああ、そうか。マチルダさんがカーマリー地方教会に加わるのってこの時期だったのか。ちょっといつ合流するのか、忘却の彼方にあったんで2巻の表紙のルキアを女性騎士であるマチルダさんじゃないかと思っちゃったんだよなあ。
さて、カーマリー教会長殺害計画という山場を越えて、状況は防衛から攻勢へと転換した。教会内選挙における劣勢に焦り、強攻策に打って出たチャスチルは幾つもの下手をうち、捕縛されたチャスチル派の供述によりほぼ一連の事件の黒幕であり、海外とも繋がっている事が明らかになったものの、それでもまだトカゲの尻尾よろしく他を切り捨てて生き残りかねない恐れがあったために、オブザーはチャスチルを追い詰めるための決定的な証拠を掴むためにエイブの街へと向かうことになる。だが、そのチャスチルを追い詰める証拠には、オブザー当人の出生の秘密が絡んでおり……。
そう、ここからがある意味圧巻なんですよ。おのがうちに秘めていた真実を、記憶を、母の叫びを紐解きながら、その複雑な心境を深々と積もらせていくオブザー。まさに情念と言っていい余りにも多くの感情を、時に持て余し、時に押さえ込みながら、真実を紐解いていく、チャスチルを追い詰めていく様子は、壮絶でありどこか哀しくもあり、しかし邪魔をしてもいけない神聖さがあり……。彼の様子と明らかになっていく真実を目の当たりにしていく、オブザーに付き従うライツやジーク、そして初対面からオブザーにまとわり付く圧倒的な人生と信仰の結実を目撃することになるマチルダさんといった、周囲の人間の心情描写と共にこの三巻で描かれる人間心理のうねりの激しさは、その見ているだけで飲み込まれそうな深さといい、目が離せない吸い込まれそうな吸引力といい、触れれば火傷しそうな熱さと凍りついて動けなくなりそうな冷え冷えと冴えた冷たさの相俟ったような情感の熱といい、ここまで丹念に、ダイナミックに、これでもかと掘り下げて繊細なまでに浮き彫りにした作品は滅多とないでしょう。キャラクターと向き合い、その内面を詳らかにする作業というのは、ある種血反吐を吐くような作業です。泥沼の中で水を汲み出すかのような作業です。それをなしてこそ、読む人を呆然とさせるほどの圧巻の、登場人物の心の底からの絶叫が、情感が生まれると言っていい。本作は、見事にそれを結実させています。十余年前、ウェブ上でこれを読み耽った時に受けた衝撃が、そのまま色鮮やかに今蘇りました。かつて以上の、魅せられたかのような哀切を以ってして。
かつて抱いた、これこそ傑作だ! という感慨は、十余年の時を経た今に至っても、何ら変わる事ありませんでした。間違いなく、この【カーマリー地方教会特務課の事件簿】は傑作です。
叶うならば、一部完のこの先の続きを、やっぱり読みたいものですよ。

しかし、内容の細かいところも大まかなところも結構忘れていたところが多かったので、カラー口絵の一シーンには大いに焦りました。え? そうだったけ? そんな事になっちゃってたんだっけ? と。焦った焦った。
シリアスだけでなく、この深刻な状況下で息抜きのように描かれるコミカルな展開もやっぱり面白くて、リリィ修道女最強伝説には、思いっきり笑わせてもらいました。いやいや、最強にも程があるでしょうw


1巻 2巻感想