ロクでなし魔術講師と禁忌教典 (富士見ファンタジア文庫)

【ロクでなし魔術講師と禁忌教典(アカシックレコード)】 羊太郎/三嶋くろね 富士見ファンタジア文庫

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アルザーノ帝国魔術学院非常勤講師・グレン=レーダスは、自習→居眠りの常習犯。まともに教壇に立ったと思いきや、黒板に教科書を釘で打ち付けたりと、生徒もあきれるロクでなし。そんなグレンに本気でキレた生徒、“教師泣かせ”のシスティーナ=フィーベルから決闘を申し込まれるも―結果は大差でグレンが敗北という残念な幕切れで…。しかし、学院を襲う未曾有のテロ事件に生徒たちが巻き込まれた時、「俺の生徒に手ぇ出してんじゃねえよ」グレンの本領が発揮される!第26回ファンタジア大賞“大賞”受賞の超破天荒新世代学園アクションファンタジー!
あれ? 本当に最近、主人公が指導者というタイプの作品が増えてきているんだろうか。
この手の作品の特徴は、ヒロインを主人公が指導する、教え導く……というのでは実はなくて、主人公がある種の挫折者であることが多いのですね。レベル1からスタートして成長していくタイプの主人公ではなく、進んだ道で一通りの経験を得ている主人公なのです。その分、生徒であるヒロインたちよりも人生経験を多く積んではいるものの、その歩んでいた道からドロップアウトして教師、教官の道へと入ってきた場合が多いので、決して目をキラキラさせてお前たちを一流の◯◯にしてやるぜ、と熱血している人はあんまり居ません。むしろ、生徒たちの交流で停滞していた時間を再び動かし始める、挫折を乗り越え改めて未来に希望を抱くようになる、行き詰まりを打破して新たな夢を見るようになる、という風に生徒たちを引っ張るよりもむしろ、生徒たちに引っ張られるようにして後ろから支える形となり、一緒に進み始める、というパターンが多いのではないでしょうか。
多分に漏れず、本作の主人公にして図らずも教職につくことになったグレンも、かつて夢見た理想を踏みにじられ、失望に心をズタズタされてドロップアウトした口でした。そのまま、保護者のスネかじって高等遊民していたら、いい加減おかんに泣かれて無理やりおかんが用意してくれた講師職に就く羽目になった、という……ある意味首を絞めたくなるような経緯を辿った野郎ですが、辞めたい一心でまじめに仕事もせず、生徒たちに迷惑をかけているあたり、ちょっと殺意が湧いてきたり……いや、マジで。あの授業態度はいただけない。拗ねたくなる理由はわからなくもないが、職を用意してくれたおかんにも失礼だし、その八つ当たりに生徒たちは関係ないわけですしね。いい年した大人なんだから、もう。
社会に出て現実を知って傷ついて絶望して……だからといって、まだ何も知らずに目をキラキラさせて頑張っている学生たちを蔑むのは、彼らの可能性を否定するのは、まさに大人げない、というものなのでしょう。現実を教えてやるのは大事ですが、自分と同じ失望を共有させようというのは間違っている。幸いにして、グレンはそこまで堕落してはいなくて、むしろ生徒たちのひたむきさに、かつて自分が魔術に抱いていた理想や、楽しさ、希望と言ったものを思い出していくことになります。それは、彼の身に降りかかった出来事の中で色あせ振り返ることもなくなってしまったものですが、だからといって少年の頃、抱いていた楽しい思い出は否定されるものではなかったはず。そして、同じように今の生徒たちが抱いているものを色褪せさせていいものではないはずなのだと、思い改めてからの精力的なグレンの講師活動は……その授業内容の革新性や充実ぶりもさることながら、生徒に対しての、生徒の未来に対しての姿勢そのものが素晴らしいものでした。
可能性を否定するのではなく、守り育てていくもの。それこそ教師の鑑であり、またそうすることによって生徒たちを通してかつてグレン自身が失っていた情熱を徐々に取り戻していく様は、見応えあるものでした。
まあ難しいのは此処からなんですけどね。
教職という主体でこのまま物語の主人公を続けていくにしても、毎回テロと戦うのも変な話ですしね。先生の仕事を蔑ろにして、変な陰謀に首を突っ込んでいくのも変な話ですし、あくまで講師としてどう物語を転がしていくのか。生徒たちを教え導き、同時に生徒たちに教えられ、という主軸さえブレなければ、なんとでもなるのかもしれません。それに、空飛ぶ幻影の城、という魔術という学究の夢の目標がキッチリと存在しているので、その意味では先々までしっかりと構成が組んである土台の広い物語なのかもしれませんね。
この女子生徒の制服が、へそ出しルックなのは色々と狙いすぎなんじゃないかと心配になりますけれど。お腹冷えますよ、この制服。
個人的には、大魔術師でありグレンの保護者役でもあるセリカが、見た目の若さとは裏腹に、完全に中身子供にだだ甘な過保護オカンだったのに笑ってしまいました。穀潰し状態の時も、働くようにせっついてはいるものの、最終的に追い出すつもりは毛頭なかったみたいだし、グレンが講師として能力を示しだした時の浮かれっぷりときたら、幼稚園で息子がお遊戯会の主役を頑張ってるビデオを周囲に無理やり見せて回って自慢するお母さんか! という有り様で。ダダ甘じゃないかw
まあ実際、グレンは幼い頃から女手ひとつで育てた本当の母親みたいなものみたいなので、しゃあないっちゃ仕方ないんですが、これじゃあ弟子じゃなくて完全に息子だよなあ。しかも、子離れ出来てないw