クレイジーハットは盗まない (ガガガ文庫)

【クレイジーハットは盗まない】 神無月セツナ/nyanya ガガガ文庫

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主人公・シャルル=クロウリーは過去のある出来事から“ヴィスク”と呼ばれる人形を盗む怪盗となり、それらを所有する貴族たちから次々と人形を盗んでいた。そんなある日、シャルルは自分が出した覚えのない予告状がリオネ・ダユーという島に届いていることを知る。従者でありパートナーの少女・アンティークを伴って、その島に向かう途中、彼らを逮捕しようと追う騎士警察の一員で幼なじみのポシェットと遭遇。逮捕されそうになるも、なんとか彼女を説得し、無事に入島を果たす。
そこでシャルルたちは、この島を支配している“100年を生きる魔女”と言われる統治者・メイル=ゴーティエとその娘であるメイツェルと出会う。不老不死と呼ばれるゴーティエの秘密を知ることができれば、自分とアンティークの目的を果たすことができるかもしれないと考えたシャルルは翌日、彼女たちが住む大聖堂へと乗り込むが、そこで彼は家から脱出しようとしているメイツェルを発見し、助け出す。そこでシャルルはメイツェルからこの事件の真実、そして自分たちが目指すものの存在を知る――。
第8回小学館ライトノベル大賞・優秀賞受賞のアクションファンタジーが開演!
怪盗が追いかけてくる刑事や探偵なんかと恋仲になる作法は、一体いつからの伝統になるのか。やっぱり【キャッツアイ】あたりになるんだろうか。
この手の伝統的怪盗モノの様式美ではあくまで追いかける側の刑事たちは、あくまで怪盗の正体を知らないまま、実は身近な人間である相手を盗みの現場でのみ追補しようとしているという形になるのだけれど、しかしながら本作では怪盗の正体は既に公のものになっている。彼を逮捕しようとしている騎士警察の幼馴染ポシェットも、勿論相手が幼馴染と知って追いかけている。もっとも、彼女の場合は騎士警察だから怪盗として指名手配されている幼馴染を追いかけているのではなく、幼馴染のシャルルを捕まえる為に騎士警察になった、という経緯があるのだけれど。
何故、彼女が騎士警察に身を投じてまで幼馴染のシャルルを追いかけようとしたのかについては、詳しくは物語を参照のこと。端的に言ってしまうならば、愛故に、という奴である。彼女なりに真実を知った上で自分にやれることをしようとした結果であり、闇から光へ愛する幼馴染と親友を救い出さんと彼女なりに導き出した方策であり、決して空回りしているわけでも的外れな事をしているわけでない。
一方で、あくまで外側から真実を知ったポシェットと違い、シャルルと共に渦中にさらされたもう一人の幼馴染のアンティークは彼と共に闇夜を往くことを選び、彼の傍らを歩むことになったのだが、何れにしても二人の幼馴染はそれぞれの愛情に殉じて一人は彼の傍らに侍り、一人は彼を追いかける事になったわけだ。
形はどうあれ、見方によっては幼馴染を両手に華である。羨ましいことこの上ない。いや、ほんとに可愛いのよ、この二人。
一途さといい、拗ね方といい、ポンポンと心臓をズキューンと撃ちぬくようなボールを投げ込んでくるのだ。怪盗らしく朴念仁からは程遠いシャルルで、基本的には二人の少女を軽妙な弁舌で翻弄する側なのだけれど、時折アンティークとポシェットが投げかけてくる駆け引き抜きの無防備な愛情が目いっぱいに詰まってこその一言にクリティカルヒットされてノックダウンさせられている様子には、思わずニマニマと相好を崩してしまう。微笑ましいというか、微苦笑を浮かべてしまうというか。
さて、怪盗が主人公ということで本作は一種の犯罪小説なのかと思いきや、実際の所は魔術という名の闇にどっぷりと腰まで使ったオカルトサイドの物語である。シャルルが求めるのも、ある魔術の真髄のうちにある自身とアンティークを救うための方策であり、その為に魔術の闇に人として真っ向から立ち向かう事になる。本筋だけ追っていると辛気臭くなる事請け合いのヘヴィーな話が横たわっているのだが、軽妙にしてド派手な怪盗の立ち回りと、彼を取り巻く少女たちの可憐さが仄暗い物語に華やかさをもたらしていると思えば、なかなかにバランスの取れたリズムの良い良作なんじゃないだろうか。面白かったよ。