つくも神は青春をもてなさんと欲す 3 (集英社スーパーダッシュ文庫)

【つくも神は青春をもてなさんと欲す 3】 慶野由志/すぶり スーパーダッシュ文庫

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物の修理が得意な高校生・物部惣一は、極貧の「小槌飢饉」を解決し、茶釜の付喪神・つくもたちと茶を啜る日々を取り戻していた。学園祭が迫ったある日、普段は常識的な生徒会長が乱心し、「学園祭で人気投票を行い、最下位は生徒会の奴隷」というサバイバル企画を決めてしまう。さらに隣のクラスの久岐波海人とトラブルになり、鞘音との交際を懸けた学園祭投票数勝負が勃発。惣一はクラスメイトの姫風紫乃と共に実行委員を引き受け、必勝に燃えるのだが、姫風は挙動不審で…!?道具を愛する少年と小さなつくも神が贈る心の“おもてなし”学園ファンタジー、第3幕!
……あれ? これ、「突破」したんじゃね?
たまーに遭遇することがあるんですが、突然作者が世界観やキャラクターを完全に「掌握」したように、カッチリと土台が固まったみたいになる事があるのです。そうなると、主人公やヒロインといった主要のキャラクターのみならず、脇を固めるキャラクターやモブキャラまでが独立したように自在に動き出すんですよね。誰か一人のキャラやストーリに牽引してもらう必要なく、キャラクターや世界が自由に駆けまわりだすのである。勿論、物語として真ん中に一本の話の筋がどん、と通っているわけだけれど、その流れに乗り、寄り添いながらもそれぞれが独自のクラスタを形成するように動いていくわけだ。こうなると、それぞれのキャラが自分の視点で動いているから俄然世界観が広がっていく。ちょうど、学園祭というお祭り騒ぎだからこそ余計に引き立ったのだろうけれど、どこに目を向けても、顔を巡らせても、そこでなにがしかが起こっている。誰かのイベントが発生している。小さな物語が弾けている。
作品そのものが、躍動感を漲らせているかのようじゃないですか。
元々、良い雰囲気のアットホームなほのぼのコメディでしたけれど、ここにきて次の段階へとボーダーを突破した感じがします。このままなら長期シリーズになってもおかしくなさそう。

さて、今回新登場となりますヒロインの紫乃は、コミュ障というかこれはもう対人恐怖症を発症しているレベルの娘なんですけれど、意外なことにその素の性格はちょっと喧しいくらいのお喋りで忙しない感じの少女でした。普通、こういう人と関わるのを恐れて、クラスでも隅っこのほうで大人しくジッとしている子というのは、大概内気で大人しい子と規定されてしまうのですが、それだけに学校でのまともに会話も出来ずに吃ってしまう姿と、自宅に帰って弟と接している時の煩いくらいの遠慮のない姿のギャップには驚かされましたし、なかなか新鮮でしたね。
無論、こういう本来なら明るくお喋りな娘が、人と話しをするのも難しいくらいのコミュニケーション障害を得てしまうにはそれなりの理由があったわけですけれど、本題である仮面の付喪神によってもたらされる、素顔と仮面の違いについての話も踏まえて、本筋であるお話も面白かったです。
惣一と鞘音の、もはや熟年夫婦かという鉄板に対しての、当たって砕けるしかないヒロインとしての立ち位置も、この仮面の問題に踏まえることになり、なかなか芯のある話でした。
しかし、この主人公の惣一のキャラクターは改めてイイ感じだなあ。ラストで「ザマア」を見事にやらかしてくれたのは、痛快の一言でした。鞘音に対するガチっぷりも素晴らしいですし、愛嬌もあって実に好きですわ。
肝心のつくもは、惣一と鞘音が夫婦めいた感じになってきた分、なんか二人の子供みたいに見えてきたぞw

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